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12 変容するもの(1)
*
冷たい汗にまみれて目覚めた。起きようとしたが、躰に力が入らない。
「まだ無理よ。しばらく横になってなさい」
横に斎子が座っていた。
頭の下で、保冷枕がぐにゃりと歪む。
「半日寝てたわ。うなされてた。夢を見てたの?」
「遠い遠い未来の……この世の終わりの日の夢だ。もしかしたらあの光景は、ずっと先の未来で、転生したおれ自身が経験する現実なのかもしれない……」
「この世は終わるの?」
「……」
「ねえ」
「おまえも〈工作員〉なのだな」
少女は笑って小首を傾げる。その笑みが、豊かな夜を思い出させる。どのようにも折れ曲がるやわらかな肢体。濡れた唇。脇の下の淫靡な薫り。煩悩をたやすく虜にする、美しい罠。
画集で見た〈刀葉林の地獄〉が思い浮かぶ。色情の奴隷になり、おのれを切り刻む男の姿。それは、まぎれもない、正人自身の姿だった。
だが、今、彼の意識に重大な変化が起きている。傍らの斎子の姿が、どんどん形骸化してゆくのだ。熱い、トータルな肉体としての価値が、意味が、失われてゆく。それは、ただの有機体の結合物、肉の袋と化してゆく。AMIの光背に刻まれた文字列に触発されて奇怪な変容を遂げ、町の背後に地獄が見えた彼の意識は、斎子の躰をたやすく分解してしまう。畳まれた皮下組織、血管と臓物と、粘液にまみれた骨組みとに。さらに細胞へ、分子へ、原子、意味のない素粒子へ──
斎子の躰に、その来るべき姿が見えるのだ。老いと死によって結わえつける力を失い、最小の粒子に崩れてゆく肉体の成れの果てが。
宝石の肉体は、無価値に還る──
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