40人が本棚に入れています
本棚に追加
正否
左側からバタンという扉が閉まる音がした。続けて声が聞こえる。
「ただいま! あれ? おきゃくさん?」
私の目の前で、ちいさな人間が首を傾げた。多分これがユウタなのだろう。
「違うよ。まずは手を洗って、ランドセルをおろしておいで。そしたら、こっちでおやつ食べよ?」
女が優しい声色で言うと、ユウタは「うんっ」と返事をして、小走りで右側に消えていった。そちら側にもドアがあるらしい。
女は男を見ると、肩を落とした。
「説明はお願いね」
男は神妙な面持ちでゆっくり頷いた。
「分かった。やってみるよ」
パタパタという足音が近づいてくる。二人は瞬時に笑みを貼り付けた。
「今日のおやつはなに?」
ユウタが女を見る。
「プリンとゼリー、どっちがいい? お母さん、張り切ってどっちも作っちゃった」
ユウタは、ぱあっと顔を輝かせた。
「プリン! でもおたんじょう日でもないのになんで? あ、もしかして」
ユウタが私を見る。
「この人のかんげい会?」
女が憤怒の表情を浮かべた。
「歓迎なんておぞましい」
低く呟くと、男が気遣わしげに女を見た。
気づいた女が笑顔を取り繕う。
「プリン取ってくるね。待ってて」
女が私の背後に消えていった。私の後ろがキッチンスペースになっていて、冷蔵庫があるのだと思われる。
ユウタは私にぺこりと一礼すると、男の隣、つまり私と向き合う位置の椅子に、よじ登るようにして座った。
最初のコメントを投稿しよう!