正否

3/8
前へ
/15ページ
次へ
 沈黙に耐えかねた女が口を開いた。女は、私にスプーンを向ける。 「ユウタのことを心配して、担任の先生が校長先生に相談してくれたんだって。そして、国から貸してもらうことになったのが、これ」 「人間じゃないの?」  ユウタは目を丸くした。 「じゃないの。よく見て。どこも動かないから」  女に促されて、ユウタが椅子から飛ぶようにして降りた。私に近づくと、至近距離で眺めながら、ぐるりと一周する。 「へえ。ほんとだ。このまん中の、とび出てるとこはなに?」  ユウタは首をぐるりと後ろに向けると、女に向かって尋ねた。 「触ってみて」 「え?」  ユウタが自分の手と私とを、交互に見比べている。 「いいから、やってみて」  女に言われ、ユウタがおっかなびっくり私に手を当てた。  かなりの大きさのエネルギーが発生した。急激に内部が冷えていく。「口」から取り込んだ空気は、全てが一瞬で水になる。あっという間に「頭」まで到達した水は、「目」から流れ出した。 「わ……」  目をしばたたかせながら、ユウタが私を見つめていた。 「どうだ?」    男がようやく口を開いた。 「なんか、もやもやがなくなったようなかんじ」 「良かった」  女が破顔した。私が初めて見た、女の笑顔だった。 「ユウタは正しい人間にね」
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加