終章:これからもずっと

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 以前にオレと結衣が部長に反論し、中条が諮問委員会というワードを出して部長を静まり返らせたのは記憶に新しかった。諮問委員会での議論の末、部長のパワハラと不倫騒動が明るみになり、部長は依願退職という選択に追い込まれた。自業自得と言えばそれまでだが、研修医時代から世話になっていたというのも事実であったため、オレとしては少々複雑な思いもあった。  きっと、それは少なからず結衣も気が付いていたのかもしれない。面と向かって言ってくるようなことはなかったが、それでもオレの内心を見透かしているような気はしていた。 「あら、桐ヶ谷さん。今日は眠たそうな顔をしているわね? 昨日、誕生日だったんでしょ? 彼氏にお祝いはしてもらったのかしら?」 「えっ、桐ヶ谷さん、彼氏いたんですか!? その話、もっと詳しく聞かせてくださいよ!」 「ちょっ、係長!? 変なこと言わないでくださいよ!? 大内さんも、あまり大きな声でそういうこと話さないで!」  そんな結衣は、隣にいた早川さんと後輩の大内さんに絡まれている様子だった。  大内さんというのは、以前にオレが回診に回ろうとしたときにお菓子をくれた看護師であって、それが結衣に目撃されてしまったという出来事があった。いつも元気そうでムードメーカーといった感じの性格の子なのだが、結衣とはちゃんと一緒に仕事が出来ているのだろうかと心配になることもある。  あいつ、意外と考えていることが顔に出やすいからな。 「そっか……そりゃあ、桐ヶ谷さんくらい綺麗でスタイルが良い人だったら、彼氏の1人や2人くらいはいますよね。指輪もしてるってことは、もう婚約したってことで良いんですか?」 「えっ、あれっ……? ウソ……外してくるの忘れてた」 「あらら~? まあ、うちは結婚指輪を付けながら仕事をするのはOKだから良いけれど、ネックレスや時計はダメよ?」  そんな彼女たちの会話がこっちにも聞こえてきており、オレは心の内で頭を抱えていた。まさか、結衣が昨日プレゼントした指輪を外さないまま仕事に来ているとは思ってもみなかったからだ。  そしてそれは、同時に隣にいた同期の好奇心を煽ってしまうという最悪の結果に繋がっていた。
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