プロローグ:17時までは仕事モード

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「ごめん! 本当にごめんね!? 本当はあんなことを言うつもりじゃなかったの!!」 「それにしたってお前なぁ……あれだと逆にすぐにバレちまうぞ?」  それから2時間後の18時。日勤の仕事を終えたオレは直帰し、自分のアパートのキッチンで桐ヶ谷と一緒に夕飯を作っていた。 「だって、絶対にバレちゃいけないって思ったら、あんな態度を取るしかないのかなって思って……本当に反省してます」 「……まあ、いいけどさ。そんなに気にしてないから大丈夫だよ。ほら、顔上げて」 「っ、せっ、瀬川くん!」  まな板の上で野菜を切っているオレの横で、桐ヶ谷は申し訳なさそうに顔を伏せながら、お玉で鍋の中にある味噌汁をかき混ぜていた。そんな桐ヶ谷をフォローすべく、オレは包丁を置いて桐ヶ谷をそっと抱きしめる。  そう、オレこと瀬川尚人は、隣にいる桐ヶ谷結衣と付き合っている。交際期間は約2週間。まさに、付き合いだして間もないという初々しさがにじみ出てしまっているカップルだった。  桐ヶ谷とは同じ高校でクラスも同じになることがあったが、特段親密になるという関係ではなかった。それこそ、名前くらいは知っているというクラスメイトの関係であり、それ以上の関係に発展することはなかった。  高校を卒業して、オレは医師になるべく地元の大学へと進学した。運よく国家試験を一発でパスすることが出来たため、大卒ストレートで就職をすることが出来た。当時の大学の教授の勧めもあり、県内で最大規模を誇るこの大学病院へと就職したのだ。そして、ふとしたことがきっかけで、桐ヶ谷が同じ病院の看護師をしていることを知った。そこから紆余曲折を経て、つい2週間ほど前にオレから桐ヶ谷に告白して、現在の関係に至っている。 「……あの時間に病棟に行ったのは、みんなが引き継ぎに気を取られて気が付かないかなって思ったから。だって、可愛い彼女が病棟にいるって、周りに知られたくないじゃん」 「っ、ん、んぅ!? まっ、待って! まだお風呂入ってないから」 「ダーメ。さっきオレにあんな態度を取った罰ゲーム」 「んっ、あぁっ……」  桐ヶ谷の背中を冷蔵庫に軽く押し付けるようにして、オレは桐ヶ谷の首筋にそっとキスをする。桐ヶ谷は最初こそ首を振って抵抗する意思を示していたが、やがてこちらを挑発してくるような妖艶な声を上げていた。 「っ、まっ、待って! それ以上はダメ!! ……ご飯食べ終わったらにしよ?」 「っ! きっ、桐ヶ谷……」  セリフと表情が伴っていない気がしたが、火をかけていた鍋が今にも吹き出しそうになっていたため、オレは慌ててコンロのつまみを反時計回りに回す。  桐ヶ谷はしばらく惚けた表情をしていたけど……あんな顔で見上げられたら、オレだって我慢できなくなるだろうが!?
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