プロローグ:17時までは仕事モード

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「んー、美味しかったぁ! やっぱり瀬川くんの作るカレーは最高に美味しいよね! 何でだろう?」 「それを言ったら、桐ヶ谷の作った味噌汁の方が旨いだろ。冷蔵庫にある材料と味噌しか使ってないのに、どうやってあんな味を出せるんだ?」  夕飯を済ませたオレたちは、リビングにあるソファーに座ってテレビを見ている……というわけではなく、それほど広くもないバスタブいっぱいにお湯を張り、そこに2人で入っていた。バスタブに背中を預けるようにオレが入り、その前に桐ヶ谷が入ってオレに体重を預けているといった格好になっている。 「それはきっと、愛情だよ。私が瀬川くんを好きだっていう、何にも代えがたい証じゃないかな」 「お前な……そんな可愛いこと言うなよ。ますます好きになったらどうするんだ?」  暑かった夏が終わりを告げて、季節は次第に秋へと移ろいを変えていく。来週には10月にカレンダーが変わることを考えると、朝晩の冷え込みが少しずつ身に染みてくるような季節になっていた。やはり、このような日は温かい風呂にゆっくり浸かるに限る。 「桐ヶ谷は明日は休みだっけ?」 「うん、そうだよ。私に会えなくて寂しい?」 「……そりゃあ、寂しいよ。毎日だって会いたい」 「えへへ、ありがと。そう言ってもらえると嬉しいなぁ」  オレに背中を預けているため、桐ヶ谷の表情はこちらからは伺い知ることは出来ない。でも、背伸びをしながら楽しそうな声を上げていると、何となくその表情の予想がついた。 「病院でも、もうちょいオレへの風当たりをソフトにしてもらえると嬉しいんだどなぁ。家と職場でのギャップがあり過ぎと言うか、極端過ぎるだろ」 「だってそれは……瀬川くんがカッコ良いのが悪いんだよ? 私は悪くないもんっ」  病院ではオレの顔を見るたびに何かと文句を言ってくる桐ヶ谷だが、家ではこうして可愛くて仕方がない一面を見せてくれる。そのギャップにやられたりするのだが、さすがにあのような態度を取られ続けると、こちらのメンタルが削られてしまう気がしていた。 「それにしたってさ……あんな態度取られると、ものすごく不安になるんだけど。やべぇ、フラれるんじゃないかって思ったり、本当はオレたち付き合っていないんじゃないかって思ったりするよ」 「それは……私が瀬川くんを嫌いになるはずはない。だって、こんなに好きなんだから、絶対に離したくない」  桐ヶ谷のお腹に回しているオレの両手をギュッと握り、桐ヶ谷は不安そうな口調で言った。
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