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「浮気はもちろんダメだけど、相手が同じ病院内っていうのが更にダメだったよな。せめて外部の人間ならバレなかったかもしれないのに、職場の近くでデートなんかしてたらバレるに決まってるだろ。まったく、そこら辺はリスク管理が無さ過ぎだったよな」
「そうだな……浮気の善悪の前に、そういった場面を想定して付き合っていかないといけないよな」
中条の意見には全面的に賛成だったのだが、それはある意味で自分への戒めにもなっていた。
桐ヶ谷と付き合ってから2週間が経過したが、自分でも知らないうちに気が緩んでしまっていたのかもしれない。昨日の桐ヶ谷みたいとまではいかなくても、病院内では桐ヶ谷とはそれなりの距離を取っていた方が良さそうだった。
「で、お前は本来外来日でもないにも関わらず、今日も外来に駆り出されるんだろ?」
「まあ、部長が不在だから穴埋めをしないといけないよな。こういうのは下っ端に回ってくることが多いだろ」
うちの病院は、1日の外来患者数が1000人を超えているということを聞いたことがあった。オレが所属している消化器内科でも、1日に70~80人くらいの患者は受診しているようだった。部長が休んでいるということで休診に出来たら良かったのだが、目先の利益を片っ端から追求するこの病院のスタイルでは、そんなことをするはずがなかった。
「院内恋愛なら珍しいことじゃないんだけどな。現に、うちの病院内でも付き合っている奴らは大勢いるし、それこそ結婚している奴らだっている。でも、俺は同業者と結婚するのはごめんだな。お互いの仕事内容を分かっているから、心の内を見透かされそうだぜ。お前はどう思うよ?」
「……まあ、それは一理あるな」
デスクトップで今日の外来患者の一覧を確認しつつ、中条の話に耳を傾ける。
いつもなら適当に聞き流しているところだったが、今日の話題が話題だっただけに、オレはいつもより何割か増しで話を聞いていた。
中条よ……お前の目の前に院内恋愛真っ最中の奴がいるんだけどな。
「まあ、お前にはあまり縁のない話だったよな。合コンに誘ってもあまり来たことないし、そんなに女に頓着するようなタイプじゃないしな」
「そ、そうそう。オレには縁のない話だ。お前こそ、仮に院内恋愛するにしても上手くやれよ? お前の場合、隠すことなく暴露しそうだからな」
仮に情報がリークしてしまうとすれば、オレの周囲で考えると中条である可能性は高い。とりあえず、今のところは気づかれている様子はまったくなかったため、これからのリスク管理を継続していけば問題ないだろう。
それでも、昨日の桐ヶ谷と一緒に過ごした夜のことを考えると、自然と笑みが零れてきてしまうのだった。
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