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ライブが終わり一息ついたとき、電源を落としていたスマホを確認するや否や、着信音が鳴った。
「奏、奏……」
母の声だ。興奮したようで、それ以上は声にならないでいる。実家で何かあったのか。奏の顔に緊張が走る。
「落ち着いて。どうしたの」
「奏、随分立派になって……ライブの音楽がめちゃくちゃいいじゃないの。おばあちゃんアンコールに感動して泣いてるわ」
「母さん!?」
予想外のアクシデントに、奏は慌てふためいた。音楽なんてどうでもいいとそっぽを向いていた母が、密かに奏のライブ配信を見ていてくれたことに驚き、じわじわと足元が喜びに震えてくる。
「おじいちゃんが『東京の孫が映っとる』って近所に電話しまくってるわ」
「それは恥ずかしいからやめて欲しい……」
苦笑しながら、家族と分かち合えた感動にくすぐったくなり、奏は汗だくになった頭を掻いた。
そして、大丈夫と心の中で唱える。背中を向いていた東京と、今度は正面から生きていく。世界は変わりつつあるけど、独りぼっちじゃないんだ。
「母さん。コロナが終息したら、帰省するから」
奏は電話越しの故郷の空に、いつか瞬く花火を思い描いた。
<了>
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