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「いい加減、夢みたいなこと言っとらんと、こっちに帰って来なさいよ。東京は新型コロナがまだ感染拡大してるっていうし……」
「分かってる、母さん。今度のライブは無観客だから大丈夫」
「奏の『大丈夫』はいっつも口先だけ。向こう見ずなところばっかり、亡くなった父さんに似て」
「そっちは変わりないの?」
「今年は花火もなくなったし……おじいちゃんとおばあちゃんがぼやいてたわ。『冥土の土産が一個なくなって寂しい』って」
窓辺に吊るした風鈴が、マンションのベランダで夕涼みする奏の耳に、生まれたての音色を届けた。場違いな風鈴は、四国にある実家から送られてきた。
心配げな母の声と重なり感傷が込み上げてきて、奏は慌てて首を振る。とんだミステイクだ。
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