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不覚
未来は僅かに入り口を開けて、外の様子を伺っていた。
そのために机も移動して、明後日の会議に持っていくためのコピーを考えながら、目線をそこへ移す。
週末は久しぶりに街に出掛けた。
スキンケアとは言え、男性が化粧品の類を使うなんて、未来の中では常識ではない。
だから若い子が集まる通りやショップを、リサーチしたのである。
芸能人の男の子が、メイクをしてテレビに出ているのは知っているが、果たして普通の男の子はどうなのか疑問だった。
しかし驚いたのは、キレイな男の子が結構いることだ。
おしゃれな男性は周りにもいるが、今まで街を歩いていて、男性をキレイと思うことはなかった。
注意深く目を配ったことがなかったからかもしれないが、未来は女性である我が身を振り返り、反省してしまった。
会議の中で案として出ていた幾つかのパターンに合わせて、コピーを考える。
ファンデーションや口紅といった類は、化粧品を使ったことがない人でも、その用途は明白だ。
でも基礎化粧品は、特に初心者にはわかりにくいだろうと言うことで、特長がシンプルに伝わるような内容にすることになっていた。
喉が渇いて、アイスコーヒーでも飲もうかと立ち上がった時だった。
家の前を誰かが通り過ぎた。
未来は慌てて、引き戸開けて顔を出した。
「王くん。」
未来は待ち焦がれていた、その背中に声を掛けた。
声を掛けられた王は、突然のことに少し驚いた様子で振り返った。
「ミキサン、ドウシマシタカ?」
「突然ごめんね。時間があったら少しお話ししませんか?5分でも10分でもいいの。」
王は突然の誘いに目を丸くした後、にっこりと笑って返事をした。
「ハイ。イイデスヨ。」
と引き返してきた。
「ちょうどコーヒーを飲もうと思っていたの。
王くんも飲みませんか?」
「ハイ。ノミマス。ハイッテモイイデスカ?」
「どうぞ。」
と未来は王を中に入れると、少し迷ってから先程と同じように、手の平が入る分だけ入り口を開けておいた。
アイスコーヒーを2つと、真ん中にはチョコレートなどを入れた陶器のお菓子入れを置いた。
事務所のスペースには仕事用の机とは別に、2人掛けのテーブルも置いてある。
未来は王の向かいに座った。
「お菓子もどうぞ。」
未来は右手を出して、王に勧めた。
「アリガトウゴザイマス。」
王は、またにっこりと笑った。
その笑顔を、真正面からまともに受けてしまった未来は、息が止まりそうになった。
まるで内側から優しい光を放っているかのような、端麗さだ。
かっこいい男というのは、ともすると、かわいいものなのだということも発見した。
未来は、どうしようもなく浮つく気持ちを、何とか抑えながら、声を掛けた理由を説明した。
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