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そして私は、自分で口にした自分の言葉をたったの12時間で後悔する羽目になる。
いつものように湊はバス、私は電車と異なるルートで通勤したが、今日は珍しく到着するタイミングが被ってしまう。そしてエレベーターの1番奥まで押し込まれて並び合った湊が、11人も積んでいる箱の中でさらりと余計なことを言う。
「木村先輩、今日も可愛いですね」
「!?」
「!!!」
「!?!」
朝の挨拶すら省略して急に褒めてきたバカ湊の言葉で、エレベーターの中に動揺が走った。中には知っている人も知らない人もいたが、社内では私も湊も割と有名人。こっちが知らなくても、残り9人は全員私と湊の事を知っているわけで。
(湊おぉ…!!)
心の中で絶叫する。全員が扉側を向いていて、1番奥にいるこっちの表情までは読み取れないに決まっているが、全ての背中に『何事か?』と興味を持たれた空気だけはひしひしと感じ取った。
それから1分ほど沈黙し、到着した階でぞろぞろと降りていく背中を汗だくで見送っていると、同じようにエレベーターを降りようとしていた肩を湊にぐっと押された。
(照れた顔も可愛くて好きだよ?)
(わ、わかったから……!!)
意地悪な唇はまた『そういうの好き』と続ける。そして見上げた視線は『今朝の努力もちゃんと知っている』と教えてくれるけれど。
だから遅いんだってば。
それ、家を出る前に言ってよ!
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