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飛んできたタオルを退けると、その向こうで彩斗にそっと視線を外された。
「……透けてる」
「!?」
タオルの心配をしていた深月を心配するような彩斗の声が届く。ぼそりと聞こえた言葉に驚いて視線を下げると、真っ白のブラウスの下に淡いローズピンクの下着が浮かんでいた。それに濡れたブラウスが、肩からお腹までのラインをくっきりと可視化させている。これでは下着姿を見られているのと何も変わらない。
だが、いま深月の目の前にいる相手はあの瀧 彩斗だ。齢28にしてすでに数々の業界人と浮名を流し、週刊誌にスキャンダラスな見出しが躍ることもさほど珍しい事ではない。これまで付き合ってきたと噂されたモデルや女優など数知れず。
そのあまりの奔放さに頭を悩ませた事務所のマネージャーが『ソレイユ』に彩斗を収監したのだ。深月というお目付け役を得て。
「はぁ……すいません。お見苦しいものをお見せして」
いちおう羞恥心というものは存在するので、受け取ったタオルで身体の前を押さえつけてはみるものの、本当はそれすら自意識過剰な気がしている。美人なわけでも、可愛いわけでも、ダイナマイトボディの持ち主ではないことも自覚している。彩斗にとってはどんな意味でも対象外の自分がハプニングの相手で本当にゴメンナサイ、と思っていると。
「なんでだよ。普通に目の毒だろ?」
彩斗の真面目な声が聞こえた。部屋のどこにいてもちゃんと聞き取れるほどの声量で放たれた言葉でさえ、なんだか嘘っぽいと思ってしまう。だから思った通りの言葉で否定する。
「いやいや、私の貧相な身体じゃ、誰も何も思わないでしょ」
深月が思うに、自分には異性に興味を持たれる要素があまりに少ない。恋人だってほとんどいた試しがない。友人には『考え方とガードが固すぎて、男の狩猟本能を削ぐ残念な女』と評されている。数年ぶりの彼氏ですら、偽装恋人という残念ぶり。そんな女をどうにか思う人がいるとは思えない。
なんて思っていた深月の耳に、偽装恋人の声が届いた。
「俺はお前で勃つけど」
彩斗の声は、よく通る。
プライベートはめちゃくちゃだが、俳優としての実力があることは確かだ。滑舌がよくて澄んだ低い声は、演技をしていてもしていなくても人の心によく響く。
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