初日で半分

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初日で半分

トレーニング初日のその後は、新入部員は10km走2本を終わらせて終了となり、その後暫くグラウンドに倒れ込んでいる部員が多数いたが、脱落者は辛うじていなかった。 レギュラー組を含めた2、3年はピッチに集合して監督を含めたミーティング後、サーバーを配置してのハーフコートでのミニゲームをしている。 この程度の走力は基本中の基本で、あって当たり前いう事だ。 ちなみに初日に走力テストに参加出来なかった新入部員が、翌日の朝練での走力テストを受け、途中で音を上げる新入部員が多数いた為に、藤本の厳しい声が飛んでいたらしい。 徹底的に「蒼学サッカーの基本」の基準値を身体に叩き込まれ、入学式から僅か1週間で新入部員は半分以下になっていた。 「ま、こんなもんでしょ」 藤本はiPadをチェックして、新入部員のタイムを確認する。 ベンチに座っている監督ーーー佐伯監督にiPadを手渡し、データを確認してもらう。 「全員集合!」 藤本の整列の声で部員が全員円状に並び、監督の声に耳を傾ける。 「今月に入ってから基礎トレを中心にやってきてはいるが、コンディションが上がっている奴もいれば、下がっている奴もいる。 数値が下がっている奴は例えレギュラーでも落とすし、新入部員の中でもレギュラークラスのタイムを叩き出している奴がいれば、そいつにチャンスを与える。 ーーーーこれから2、3年だけの紅白戦をする。 1年は蒼学のスピード、技術、判断力を目で覚えろ」 「「はい!」」 完全実力主義、与えられるポジションではない、奪うポジションなのだと実感する。 佐伯監督の確固たる信念に宮原は更に気持ちを高めた。 そんな中、藤本が新入部員だけを全員集まるように指示を出す。 「全員でジャンケンして」 多分、新入部員全員が「?」マークになっていたが、取り敢えずは藤本の指示に従ってジャンケンをする。 「ジャンケン!!」 ーーーで、宮原を除いた9名がグー、宮原だけがチョキで1発で決まった。 「お前、ジャンケン弱いなぁ!」と、松下がからかってくる。 「ーーーうっさいなぁ。 藤本先輩、何ですか? コレの意味」 藤本は不貞腐れる宮原に向かってニッコリと笑う。 かなり裏がありそうな藤本の不敵な笑顔に宮原は訝しんだ。 「サッカー部の部室はアレ。 掃除道具はシャワールームに入ってるから。 あと、宜しく」 「はぁ???」 素っ頓狂な宮原の声が響き、周囲から笑いが漏れる。 松下は「じゃあ、頼むわ」と言い右手を上げ、2、3年生の紅白戦が行われるピッチへ足を運ぶ。 「松下。 部室の掃除は1年でローテーションを組んでもらうからな」と、藤本が提言をする。 「マジっすか…」 「明日からの掃除当番の順番。 こっちで用紙貼り出しておくから、日々、午後の練習前に必ず掃除は終わっておく事!」 藤本は一通り説明すると、ビブスを着てピッチに入っていく。 サイドラインに立つと、ピッチに向かって一礼をしてから中に入り、レギュラー組のボランチのポジションに着く。 その後ろ、レギュラー組のセンターバックのポジションに沢海がいる。 沢海は目を瞑ってその場で軽くジャンプし、首を回している。 センターサークルにボールが置かれ、紅白戦が始まる。 「沢海先輩のプレイ、見たいなぁ… ーーーーはぁ… なんでジャンケン負けんだよ…」 宮原は他の1年生がピッチサイドに向かう中、1人だけ部室のある反対方向に足を運び、重い溜息を吐いた。
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