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世界中から音が消えた。全てが休眠状態に入り、静が世界を支配する。
狭いアパートで鬱々と過ごす毎日は、涙が出るような心持ちになる。
テレビの映像が無意味なコマ送りに見える虚無状態の昼下がり、歌が聞こえた。
外からだった。
え、外?
窓を開けて、隣の部屋からと分かった。
透明な、よく通る綺麗な声だ。広く知られたJ-POPだった。
窓辺で聴き入っていると、声の主はピアノを弾き出した。どうやら弾き歌いに挑戦するらしい。
耳をそばだてていると、歌と違い、ピアノは絶望的に下手くそだった。
同じところで何度もつっかえて肝心の歌声が全然聴けない。
ああもう! と私は物置と化していたキーボードを窓辺に移動し電源を入れ、蓋を開けた。
この曲ならコードで弾ける!
パラパラッと曲のコードを弾くと隣のピアノが止まった。
ドキドキしながらイントロを弾くと、天使の歌声が私のピアノに乗ってきた。
近所迷惑? この際考えない。
こんな世の中だもの。
曲がサビに差し掛かった時、サックスが入ってきた。
驚きながらも続けていると、ギター、キーボードももう一人。
歌と音が繋いでくれた縁。奇跡のセッション。
音は消えてなかった。
私達は音で繋がる。
音紡ぎ、始めました。
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