第1話 初恋―晶斗

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「もう帰る?」 「いや、図書館寄るわ。」 別にいつも約束しているわけではないけど、腐れ縁の僕たちの家は徒歩3分圏内にある。朝も時間が合えば一緒に登校するし、帰りもなんとなく一緒に帰ることが多い。 予想がつくだろうが、僕たちは帰宅部だ。なんとなく一緒に帰るというのは帰宅部の僕たちにとっては"絶対に一緒に帰る"という意味に等しかった。 は。 「お前最近図書館好きな。」 今まではどちらかが風邪で休まない限り一緒に帰っていた僕たちだけど、最近は僕が図書館によって帰ることが増えたこともあって、別々に帰ることも増えた。 一緒に帰ろうなんて約束をした覚えがなかったから、もしかして今までの方が異常だったのかもしれない。 僕のそのセリフを聞いてシュウは「じゃあな。」と軽く挨拶をして、教室を出ていった。 ☆ 今まで16年間生きてきて、別に本が好きになったこともないし、逆に嫌いだったこともない。これからだって特別好きになる予定はないけど、それでも僕が図書館に行くには理由がある。 図書館に入ってすぐ目の前、そこにはいつも注目の本が置いてある。 新作だったり学校で人気の本だったり、特に本が好きではない僕でも知っているような話題作があったりするので、特に読みたい本もない僕はいつもそこから1冊テキトーに本を選ぶ。そして話題作の棚のすぐ横にある机の端の席に、入り口には背を向けて座る。 そうすると一番奥の机の僕の対角線上に座っている彼女が、自然と視界に入る。 彼女のことを知ったのは、とても些細な出来事だった。 同じ学年だったけど特に交わることのなかった僕たちはこれからも特に出会う予定もなかったけど、その日あの冴えない担任が偶然見つけた僕に図書館への用事を頼んだところで運命は変わったみたいだった。 用事っていうのはは図書館の先生に書類を渡すとか、そういう些細なことだったから、声をかけられたとき僕はこれから起こる"変化"に気づく由もなかった。だからその時は自分で行けよと文句をたれつつ、重い腰を上げて図書館に向かった。
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