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そしてその日も、彼女はそこに座っていた。
広い図書館の空席のなかで、彼女の席だけに日がさしているように見えた。それが本当にさしていのた、僕にだけそう見えたのかわからないけど、なぜだか僕はその光景から目が離せなくなった。
その次の日、僕はなんとなく図書館に行った。
なぜだかわからないけど、姿勢よく座って本を読んでいた女の子の姿をもう一回見たくなって、この席に座って本を読むふりをしてみた。
その日も彼女は、同じ席に座って同じ姿勢で本を読んでいた。
肩で切りそろえられた髪の毛は日にあたるとどことなく茶色く透けているように見えて、それがまたキラキラしてみえた。何時間でも姿勢を崩さず本を読んでいる姿は、静寂に満ちていたけど、でも目はいつも輝いていた。僕なんかと違って本当に本がすきなんだという事が、その目から伝わってくるようだった。
そしてそれから僕の足は、図書館に向かうようになっていった。
本当は毎日彼女を見たくて、今日はどんな顔をして本を読んでいるのか知りたくて、でも気持ちが悪いから週に何回だけ図書館に行くようにしていた。
話したこともないのに、名前も知らないのに、僕は彼女のことが気になってたまらない。
人はきっと、これを恋と呼ぶのだと思う。
今まで興味がなかったと言えばうそになる。平均値の男である僕は、これまでだって人並みに恋はしてきたし、中学生の頃はなんとなく告白してくれた子と付き合ってみたこともあった。でもなんとなくそれは"好奇心"みたないもので、恋ではなかったんだと思う。
恋ってなんなのかはまだよくわからなかったけど、彼女を毎日でも見ていたいと思う。この僕の気持ちの悪い気持ちが恋であるということに気が付かないほど、僕は子供ではなかった。
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