後輩社員の瀬野くん。

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後輩社員の瀬野くん。

 1 この春、一つ年下の男性社員が同じ部署に配属された。四月に入社してきた社会人一年生の彼だ。 初めましての挨拶で、彼は瀬野(せの) (さとる)と名乗った。 愛想が良くて、要領も良い。まだ若いのに他人が今何を欲しているのかを巧妙に読み取り、それをサッと出せる迅速さも持ち合わせている。 背が高くて、普段から姿勢も良い。ぱっちり二重の丸い目を細め、形の良い唇で笑う。 人付き合い容姿共に、平均値を上回る彼は、言うまでもなく真面目で仕事にも一生懸命だ。 先輩社員から可愛がられ、殊に女子社員からはハート目線で見られる。 春から夏にかけての数ヶ月、そんな彼と共に働き、思うことがある。 パソコンに向かうキリリとした横顔、目を細める仕草。 幾らか顔を上げ、ほうと息をつく時にすぼめる唇。 髪をかき上げた後に耳たぶを触る癖。 片頬だけを窪ませて笑う笑顔。 彼のこうした挙動は以前にもどこかで見た事がある。 瀬野くんのふとした仕草に何度も呼び起こされる既視感。 その正体が分からず、ただの気のせいだとその都度自分に言い聞かせてきたが、モヤモヤとした気持ち悪さだけが胸に居座る。
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