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確かに知っていると思うのに、それがいつの記憶だったのか中々答えに辿り着けない。
もしかしたら、他人の空似というやつだろうか?
瀬野くんとはこの春が初対面なので、その可能性は大きい。
とすると、私は別の誰かに彼を重ねて見ている事になる。
何の兆候もなく、フッと頭の中に浮かぶ映像やイメージ。
どこか池のほとりで白いワンピースが揺れている。
やっぱり知ってると思ってしまう。
こげ茶色の髪を揺らし、まん丸の瞳を三日月型に細める。片頬にだけ浮かぶ笑窪。
そして笑った顔とは対照的に、凛とすました横顔には憧憬の念がわく。
だんだんとその曖昧な記憶がシャープな輪郭を帯びていき、私は遂にデジャブの正体を探り当てた。
瀬野くんの醸し出す雰囲気が、子供の頃にたった一度会っただけの女の子と重なるのだ。
「あれ? 大野さん、まだ残ってたんですか?」
目の前のPC画面に集中していたせいか、声を掛けられた時、ビクッと肩先が上がった。
「……瀬野くん」
声を掛けた張本人を見てからフロア内を見渡すと、いつの間にかもう皆帰っていて、パソコン作業をしているのは私だけだった。
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