後輩社員の瀬野くん。

2/8
前へ
/19ページ
次へ
確かに知っていると思うのに、それがいつの記憶だったのか中々答えに辿り着けない。 もしかしたら、他人の空似というやつだろうか? 瀬野くんとはこの春が初対面なので、その可能性は大きい。 とすると、私は別の誰かに彼を重ねて見ている事になる。 何の兆候もなく、フッと頭の中に浮かぶ映像やイメージ。 どこか池のほとりで白いワンピースが揺れている。 やっぱり知ってると思ってしまう。 こげ茶色の髪を揺らし、まん丸の瞳を三日月型に細める。片頬にだけ浮かぶ笑窪。 そして笑った顔とは対照的に、凛とすました横顔には憧憬の念がわく。 だんだんとその曖昧な記憶がシャープな輪郭を帯びていき、私は遂にデジャブの正体を探り当てた。 瀬野くんの醸し出す雰囲気が、子供の頃にたった一度会っただけのと重なるのだ。 「あれ? 大野さん、まだ残ってたんですか?」 目の前のPC画面に集中していたせいか、声を掛けられた時、ビクッと肩先が上がった。 「……瀬野くん」 声を掛けた張本人を見てからフロア内を見渡すと、いつの間にかもう皆帰っていて、パソコン作業をしているのは私だけだった。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加