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壁掛け時計に目をやると、既に八時を回っている。
「どうしたの? 忘れもの?」
私自身は残業に違いないので、帰ったはずの彼が戻って来たのを不思議に思い、尋ねた。
「はい、まぁ…」
私の斜向かいにあるデスクの引き出しを開け、彼は中からスマホを取り出した。
忘れものが何かを知り、それは確かに取りに戻るなと合点がいく。
「大野さんは残業ですか?」
顔を上げた瀬野くんと思い切り目が合い、若干反応が鈍る。
「……あ、うん。今日パッケージのデザイン画を数種類用意しておけって課長に言われたから」
「集中し過ぎて捗っちゃった感じですか?」
「まぁ、そんなところ」
フッと口元を緩めて笑うと、彼も目を細めてクスッと微笑んだ。
「もうそろそろ終わりそうですか?」
「……え?」
「あ、いや。大野さん、メシまだですよね? 良かったら食べに行きません? 俺もまだなんで」
そう言って腕時計を見つめる彼を見て、ドキンと鼓動が跳ねる。
兼ねてから抱いていた既視感の正体を確かめてみたいという欲求が、ふつふつと湧き上がる。
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