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「うーん、ってわけでも無いんだけど……」
仕事終わりに寄るお店と言えば、居酒屋が定番だと思ってたから。
瀬野くんは柔らかく目を細めて笑い、手前に立てられたメニューを取った。
「ここ、ウマいんですよ。店主も良い方だし、リーズナブルで最高」
「へぇ。そうなんだ」
再び店内を見渡した。
お客さんは私たちの他に三組だけ。
お酒を提供しないお店らしいので夜は特別流行っては無さそうだけど、昼間は満席だろうなと予想できた。
知る人ぞ知る穴場のお店って雰囲気もあるし。
瀬野くんはオーダーを生姜焼き定食と決め、私は迷いに迷った挙げ句、好物のハンバーグ定食を頼んだ。
「大野さん、ハンバーグ好きなんですね」
「そっ。子供の頃からの大好物」
迷った時は大抵ハンバーグだ。
注文を取るおばちゃんが去ったあと、目の前に座る瀬野くんと目が合った。
会社以外の場所でこうして彼と向かい合って座るのを、今更ながら不思議に思った。
白いタオル生地のお絞りで手を拭く彼を見つめ、私も手元のそれを手にして考える。
デジャブの正体を、確かめたいとは思ったけど。一体、何をどう聞いて確かめよう?
あれは今から十年以上も前の事で、言ってみれば昔の話だし。
私の思い違いで、無関係な可能性だって有り得るわけだし……。
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