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「今日は気分が優れませんか、大和先輩」
大学から離れたカフェにて、阿澄と向き合うようにして座っていた大和だが、喧嘩の余韻が中々抜けずいつものように笑うことができなかった。そんな大和を気遣うようにして阿澄は早々と持ってきていた写真を鞄にしまいコーヒーを追加した。
「俺でよければ話聞きますよ。といっても俺なんかじゃ頼りないと思いますが...」
いつものようにケラケラと楽しそうに笑うのではなく、まるで天使のようにふわりと笑むその姿に思わず胸がどきりと鳴った。
窓から射し込む日差しが阿澄のさらついた金髪にあたりキラキラと光る。そうすれば血管が透けて見えるのではと思ってしまうほどに肌の白さが増した。
見れば見るほどに綺麗な、人形のような男である。そんな男とこうしてカフェで頻繁にあっている事実に僅かに優越感を感じた。
「いや、彼女と...麻衣子とちょっと喧嘩したばっかりでさ」
「あー、あの気の強そうな彼女さんですか。大和先輩の写真でよく見ますけど、喧嘩したら怖そうですよね」
「まぁな...」
ポリポリと頬を掻き、大和は苦笑いする。
それを見て阿澄もクスクスと小さく笑った。
「麻衣子さんとは長いんですか?」
「あぁ、高校の頃から付き合ってるからかれこれ4年目かな。あいつ、束縛激しいから大変でさ」
再び大和は苦笑いする。なんとなく気持ちが落ち着かず、手元のコーヒーカップに触れる。ツルツルとしたよくある陶器はコーヒーの温かさで仄かに温まっていた。
しばし俯きカップを触っていれば突然目の前に白く、細い手が自身の手に折り重なった。
「なっ、阿澄...?」
驚き、顔を上げればこちらをジッと見つめる瞳と目が合う。
「大和先輩を独占できるの羨ましいなぁ」
「...っ、」
ごくり、と大和の喉が鳴った。
白い指が手の甲、指の節々と順に撫でていき、かと思えばなんとも呆気なくスッと離れていった。
「そうだ、明日は休日ですし気分転換に一緒に写真でも撮りにいきませんか」
「えっ、あ、あぁ、そうだな」
阿澄の細く綺麗な指に意識を奪われ咄嗟に反応ができなかった。先程のは何だったのか、それを問う間もなく話題を変えられる。
こんな風に男に触れられるのも翻弄されるのも初めてのことであった。
“阿澄君、来るもの拒まずで男女関係なく食べちゃうんだよ”
目の前で朗らかに笑う男を見て思い出すのは麻衣子のあの言葉だった。
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