迷惑な新入生

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 翌日、大和と阿澄は都会から離れ遠出した。JRを利用し1時間、降りた先に広がるのは自然豊かな山々。夏日和で暑い日であったが、高い木々が多いせいか街中よりも涼しく感じた。  風で葉が揺れるたび木漏れ日が揺れ動き、心地良い空気が鼻腔を擽る。  人気も少なく写真を撮るにはもってこいの場所であった。  「これはいい気分転換になりそうだな」  「ここ、いいですよね。部に提出する時の写真は大抵ここで撮ってるんです。花と植物とか撮ったりするのも好きなので」  阿澄よりもやや身長の高い大和は隣に立ちその綺麗な横顔を眺め見る。そうしていれば不意に阿澄がこちらを向きパチリと目が合ってしまった。  「先輩、俺の顔好きでしょ」  「...っ、」  「そんなあからさまな反応しないでくださいよ。でも、普段クールな感じなのにそう言う反応するところが可愛いですよね」  クスクスと笑う阿澄にそう言う反応とはどういうのだ、と言えるわけもなく大和はただただ顔を赤くするのみである。  ばつが悪い、と誤魔化すように無言で阿澄の背を軽く押し歩みを促した。  「ここに誰かを連れてくるのは初めてなんですよ。俺の秘密基地、とでも言っておきましょうか」  「そんな秘密基地に俺を連れてきてよかったのか」  「ははっ、いいんです。大和先輩は特別ですから...これで俺と先輩の秘密がまた増えましたね」  目を細め、ニンマリと笑う阿澄。自身を特別扱いするその心地良さに大和の優越感も膨らんでいく。  それから他愛もない話をしながら歩いてしばらく、山の広がりに出ると「この辺でいいでしょうか」と言い阿澄は立ち止まった。    「俺はこの辺で提出用の写真を撮りますね。先輩も俺のことは気にせず好きに写真を撮ってください。あ、何かあったら気軽に声を掛けてくださいね」  「あぁ、わかったよ。道案内どうも」  鞄からカメラを出すと阿澄は近くの植物を撮り始めた。大和もカメラを取り出すと山から見える街の景色を撮り始める。  普段は人物を撮るのがメインな為、欲を出せば阿澄自身を撮りたかったのだが大学内の王子と言われる男に気軽に被写体になってくれとは言えなかった。  それでも1枚、2枚とシャッターを切っていけば、思いの外満足のいく写真が撮れた。  これを提出用にするのもアリだな、と思いながら夢中になって景色の写真を撮るが、ふと目線を外した時近くにいたはずの阿澄の姿が見えなくなっていることに気がついた。  「あいつ、どこに行って...」  姿を探して辺りをふらつく。そうしていれば、近くでいくつも切られるカメラのシャッター音が聞こえてきた。きっと阿澄だ、そう思いその音を目指して大和は歩み寄っていく。————しかし、木陰から見えた阿澄の姿を確認した瞬間大和は思わず立ち止まった。  
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