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お化け屋敷
怖い話が苦手だ。かといって、心霊系は怖くない。生きている人間が一番恐ろしいとずっと思っている。
ドアや窓がガタガタ揺れるのは建てつけが悪いから。ボロボロの建物は長い年月のたわもの。お化け屋敷だといつからか言われるようになってしまった家を見て、思わずため息をついた。
最近どうにも肝試し感覚で家を覗きに来ている人がいるようで、穏やかな夜風さえ満足に楽しめない。ため息をつきながら縁側に腰掛け、くっきりと光る半月を見上げた。
ガサガサと玄関のほうで音がした。誰か来たらしい。来客でないことは確かだろう、そう思いながら重い腰を上げる。今日こそはガツンと言って、お帰り願わねば……
相手が刃物でも持っていたらどうしようか。ヒヤヒヤしながら柱の影から覗くと、すでに玄関口に入ってきている若いカップルがいた。
「ねえ、本当に大丈夫なの?」
大人しそうな女性が、果敢に進む彼氏に訊ねている。
「大丈夫だって。幽霊なんているわけない」
茶髪の男が自慢げに答えてスマホのライトをあちこちにかざした……最悪なことに、シャッター音と共に。正直、一番苦手なタイプだ。しかし安眠のためだ、腹をくくろう。
「そうじゃなくて、勝手に人の家にはいってさ」
ごもっとも。よし、ガツンと言ってやろう。さん、にい、いち。
「そんなこと言ったって、ここ……」
「こらああああ!」
第一声はうまくいった。
「きゃああああ!」
「うわああああああああ!」
想像していた以上の叫び声に怯んでしまい、第二声は出てこなかった。だが、まごついてしまうのも格好がつかない。震えているカップルをキッと睨みつけ――トラウマを植え付けかねないのが申し訳なかったが――つかつかと歩み寄った。説教の一つや二つしてやらないと気が済まない。口を開いたが、
「ご、ご、ごめんなさい!!!」
「ひ、出たあああああああ!」
漫画のようなリアクションをしたあと、二人とも走り去ってしまった。やり場のない言葉がしばらく喉の奥でぐるぐる回り、もやもやした何かになって頭の中に居残ってしまった。まあ、これに懲りたらもう二度としないでほしい。縁側に戻り、また月を見た。夜風が久しぶりに心地よかった。
しばらくの間、嫌な来客もなく平穏な毎日だった。しかし、ある日の昼下がり。いきなりどこかの寺からお坊さんがやってきた。
突然なんだろう。そう思いながら中へ通すと、おもむろにお経を唱えはじめた。だから生きている人間は嫌なんだ……
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