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関係の箱
アロイスが告げるまるで耳馴染みがない言葉を、都築はオウム返しにしてみた。
「はい。我が国では秘密にすべきことや私的な事柄を含め双方の間に生じる関係をそう呼びます」
アロイスの言葉に含みがあるように聞こえたのは都築の単なる思い過ごし、――自意識過剰だろうか?
しばしの沈思黙考を経て、都築が例えをひねり出す。
「――パンドラの箱みたいなものですか?」
ギリシャの神がみがこぞって集まり創り出した女性には『全ての贈り物』という名と一つの箱とが与えられた。
下界の男へと嫁がされた彼女が、「けして開けてはならぬ」と固く戒められていたその箱を開けると中からは果たして――、ありとあらゆる厄災が飛び出して来た!
慌ててふたを閉めるも時既に遅し、閉じ込められていたもののほとんどは出てしまった後だった。
唯一つのものを残しては――。
アロイスは都築の連想をズバリ見抜いていたようだった。
「はい。ただし、必ずしも底に『希望』が残されているとは限りませんが」
と、先回りをしてパンドラの箱の結末を述べた。
「分かりました。その『関係の箱』に一切合切を仕舞っておきます」
都築は全く心が伴わないままにアロイスへと答えていた。
――どの道それしか、自分には進むみちがない。
「あなたたちは、はいならはい、いいえならいいえ、とだけいえ」は、骨身に染みてよく分かっているつもりだった。
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