深淵の天使

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 それでも――、と、都築は心の中で付け足す。 それでも、新藤を追いかけて迫らないといけない。 そして必ずや追い付かなければならない。と強く烈しく思う。  自分が使徒たちを(すべ)る使徒総長や、桐家の仮初めの同行者だからではない。 それ以前の以上の問題、――いや、命題といっても言い過ぎではないと都築は考えていた。  遠路遥ばる極東(日本)を訪れた奇蹟調査委員会の一員がため息を吐いた。 都築は一瞬、自分の耳の方を疑った。 それは極めてひそやかにだったが、確かに彼の鼓膜を震わせた。  その後を引き継いだアロイスの声は全く平らかで静かだった。 深くて広い黒き森(シュバルツヴァルト)の静寂さそのものだった。 「分かりました。私の権限が及ぶ範囲内でのことは全て貴方にお話し致しましょう。ただし――」  人は(まこと)にまこと大事なことは、本当の最後のさいごに言うものだ。と都築は改めて感じ入る。  覚悟を決めて、アロイスへと応じた。 「何でしょうか?」 アロイスは都築が思いも寄らないモノを取り出してきた。 「この話はすっかりと『関係の箱』に仕舞い込んで頂きたい」 「関係の箱に、ですか?」
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