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都築が魔女の最後の光を浴び、『仔羊の園』へと引き取られたのは五歳の時だった。
ちょうど今から四半世紀前のことだった。
今のいままでそのようにしてきたからこそ、こうして生き永らえているのだと自分ではそう思っている。
多分、おそらくは天の御国へと召されるその瞬間までこうなのだろうと、それこそもう既に天の高みから見下ろしているかのように思っている。
――そう、まるでまるっきりの他人事のように。
アロイスは都築の顔へと右手を伸ばした。
こめかみへと触れるかふれないかのところで指先が止まる。
「『燃える石』――」
「え?」
アロイスのつぶやきは謳うような響きを帯びていた。
微かに緑の瞳をそよがせてアロイスは都築へと告げる。
「我が国では琥珀のことを『燃える石』と称するのです、兄弟・都築。そうやって烈しく目を燃やし輝かせる様はまさにその名の通りで――」
そこで謳いは一拍を設けた。
アロイスの人差し指が都築の左眼の下の曲線を辿る。
琥珀の炎が投じられた暖炉の目前で指先を温めているかのような動きだった。
「不謹慎ながら、とても綺麗だ」
「・・・・・・」
その言にはさすがの場慣れしている都築でも、アロイスにすぐさま謝辞を返すことは出来なかった――。
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