関係の箱

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 都築は思い直し、今一度キャビネットからブランデーの瓶を取り出した。 やはり、先ほどと同じくキッチリと指一本分だけをグラスへと注ぎ入れる。  今度は一息に飲み干さない。 それを眺める都築の目はグラスの中身とそっくりそのまま、同じ色合いをしていた。 ――()を酔わせ惑わせる酒の色とまるっきり同じだった。  都築がグラス越しに見る『使徒総長執務室』には、今は都築の他に誰もいない。 それが平時、日常(何時ものこと)だった。  アロイスがあの時に差し出してきた『関係の箱』には、都築がほんの一瞬だけ危ぶんだはまるで仕舞われていなかった。 その点では素直に、都築は心の中でアロイスへと謝った。  都築が全く知らなかった、――知らされていなかったのは本部が『沈黙の天使』と呼び称している存在だった。 彼らは魔女の力を確かに有してはいるが、正しくは魔女ではない。 、その力を手に入れらざるを得なかった者たちを指し示していた。  使徒の力が天与のものであると称されるように、それは試みるもの(悪魔)の仕業によるものなのか?  初めて聞き及んだ都築はアロイスへとそう問いかけた。 『白き鹿(奇蹟)』を追う者は(まこと)にまこと、分からないと答えた。 ――今時点での段階では『反対者』本部の見解は『不明』とされていると、言い足した。
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