消えない孤独

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俺の部屋には、父の遺品がある。 あの男達が言っていたように、血の繋がりはない。 実母は俺が産まれてすぐに病死したらしく何も覚えてない。 実父が1人で俺を育ててくれていたけど、6歳になった頃過労死した。 元々、病弱だったんだ。母も父も。 それを受け継いでしまったのが俺だった。 実父の親友であった米原豊彦さんに引き取られ、10年もの間一緒に暮らしていた。 学校にも通わせてくれて、欲しいものを買ってくれる本当に優しい父で。 「これ……2人で野宿した写真だ」 アルバムを捲っていたら、川で大きな魚を手に提げて笑う父を見つけた。 3年前、俺が中2だった頃。 この時は楽しかったなぁ…… 仕事が休みの父は、突然俺を起こすと「キャンプしよう!」と言ってきた。 俺は唐突すぎて最初は渋っていたけど、父が車を走らせた瞬間からワクワクしていた。 川で魚釣りをして、獲った魚を食べる。 それが本当に楽しい。 テントを張って2人で中に入ると冒険をしている気分になって大はしゃぎした。 夜も眠りたくなくてずっと起きていたけど、父はそんな俺を見守って寄り添ってくれていた。 もう、こんな風にはしゃぐ事もできない。 キャンプ行こうと唐突に言ってくるあの優しい笑顔も見ることはない。 俺の頬に、無意識に涙が溢れ出した。 どうしてなんだろう。 神様は、どうして俺の大切な存在を簡単に奪ってしまうんだろう。 俺が引きつけているのか、悪魔のようなこの惨事を。 「父さん……会いたい。夏希って呼んで……」 イヤだ、現実だと認めたくない。 つい数週間前は地に足をついて生きていたんだ。 仕事行ってきます、と優しい笑顔で。 俺も学校頑張って行くからと笑って。 その幸せを、現実は一瞬で崩壊させた。 憎みたいのに、誰を憎めばいいのか分からない。 誰か助けてください。 そう叫ぶことしか、できない。 春馬さんにウロウロするのをやめろと言われたのに、翌日もまた俺は家を出ていた。 やめられない、父が亡くなった路地に来るのが。 朝から石段に座り、ジッと動かずにいる。 この時間帯は特に人通りが少なくて、俺だけの世界みたい。 物思いにふけっていたら、突然口元を塞がれ強い力で背後に引かれた。 「っ⁉︎」 抵抗できないほどの力で路地裏に引きずられ、何が何だか分からなくて混乱する。 「おら、捕まえてやったぜえ。動くなって」 「遠目で見るより断然かわいいじゃん、ナイスっ」 え、なに……なんなんだ。 1人の男に後ろ手で捕まえられ、もう1人の男に顎を上げさせられる。 「やだっ、手、離せッ……気持ち、悪いっ」 「オレらが怖いか? 安心しなって、大人しくしてりゃあ優しくシてやるよ」 「や、っ、どこ触って、!」 赤髪の男の指が俺の乳首をイジり始めた。 俺は男なのに……!イヤだ……! 抵抗しても腕をガッシリ掴まれていて逃げられない。 必然的に胸を突き出すようになり、指先が乳頭を刺激してくる。 「ふ、んッ……ン、っ」 「乳首で感じんの? 陰気でかわいい顔して淫乱だな」 「違ッ……」 「おれはこっちをイジってやるよ」 俺の腕を背後から掴む黒髪の男が、変な手つきで股間に触れてきた。 「んぁっ、は……い、やっ、助けて……!」 「そんなエッチい声で啼いてたら信憑性まるでねーぞお」 「かわいい上に感度良いとか、最高かよ」 男だと知っていて、この2人は俺の体を触ってくる。 こんなの嫌だ、気持ちが悪い。 赤髪は前ボタンを外し始め、背後から回った手が俺の陰茎をしごく。 次の瞬間には露出した乳首を赤髪の口に含まれた。 「あぁんっ! な、で……俺、んっ……男、なのに、ッ」 嫌なのに、快感を覚えて声が出る。 まだ誰ともしたことがないから、初めて人に触れられる感覚に早くもモノが硬くなってきた。 「あ、んっ、助けて……父さっ、助けぐむッ!」 「叫ぶなって。殴られてえの?」 口を塞がれ、助けを求めることができなくなった。 誰も俺を助けてはくれない。 孤独なんだ、どこに行っても俺は____ 「離せよオッサン」 俺の心臓は、父とは正反対な低く鋭いその声にギュッと締めつけられた。 「あ゛ぁっ? 何の用だ、クソガキ」 「チャラついた格好して善者気取りかぁ? それとも、おれらから奪って喰う気かよオマエぇ」 男達の言葉は無視して、春馬さんがどんどん近づいてくる。 「何が悲しくて、んな問題児のお守りをしないといけねえと思ってんだよ……こちとら予定の大半そのガキに潰されてん、だぞッ」 「グハッ‼︎」 春馬さんの拳が赤髪の顔面を直撃し、身体が吹き飛んだ。 俺は恐怖に脚がすくみ、カタカタと体が震えだす。 手を掴む黒髪に突き飛ばされ、壁に背を打ちつけて激痛が走る。 「うぐッ……痛、っ」 「こんのクソガキッ、しばかれてえのか‼︎」 「遅ッせぇんだよオッサン!」 拳を伏せて交わした春馬さんが、回し蹴りを黒髪の側頭部へ命中させる。 急所を突かれた男はその場に倒れると意識を失った。 …………怖い、こんな強そうな2人を一瞬で。 「あ゛ぁー、マジだりぃ。……おいっ」 「ヒッ! ……た、助けてくれて……ありがとう、ございますっ……ごめんなさい」 狼のような目が怖い。 言いつけを守らなかったから、殴られるかもしれない。 春馬さんは無言で俺の元へ来ると拳を振り上げ、俺は「ごめんなさいッ」と叫んで腕で顔を庇った。 だけど、何も飛んではこなかった。 「あほか、殴らないっての。俺が姉貴に殺されんだろ」 「っ……」 寸前で止めた春馬さんは俺の服のボタンを綴じると「朝飯だ、帰るぞ」と立ち上がった。 「おい、早く来いや」 「は、はいっ」 不思議だった。 春馬さんは、顔も声も言葉も怖いのに手を上げてはこない。 お姉さんよりも、きっと強いのに。
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