消えない孤独

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夕暮れ時、春馬さんと家に帰ってきた。 初めての大学校舎巡りは意外にも楽しくて時間があっという間に過ぎていた。 余韻に浸りながら部屋に戻ろうとしたら春馬さんに手を引かれ、彼の部屋に連れ込まれる。 壁と春馬さんに挟まれて「え」と声が漏れた。 「あ、あの」 「なぁ、お前自分でヤッたりしねえの」 「へ……な、何を、ですか」 手が俺の下腹部をなで、股間に触れるとひどく硬直する。 「ここ、自分でイジらないの?」 「ッ!」 パーカーを捲ってパンツの中へ侵入してきた春馬さんの手は、下着の上から俺のペニスをなでてきた。 ビクッと大きく痙攣して逃げようとしたけど、脚の間に膝を入れて手首を掴んだ春馬さんは「逃がさねえよ?」と瞳を鋭利にする。 「あっ、ん……春、馬さっ、」 少ししごかれただけで先走りが溢れて下着を濡らす。 イヤだ……イヤなのに、っ 嫌なのに、気持ちよくて腰を捩る。 下着の中へ入ってくると、亀頭を掌で転がされ早すぎる射精感に襲われた。 「んゃ、あんっ……あぁあ、それ、やだっ……ンっ」 「ちょっとしかイジってないのにもう濡れてんぞ、堪え性ねえな」 「はっ、ん、だめ……っ」 パンツと下着を一緒にズラされると、勃ちあがったペニスが露わになって顔が熱くなる。 垂れている我慢汁が恥ずかしくて手で隠した。 「い、やっ……」 「隠すなよ。抜いてやるから素直に感じてろ」 「ふぁっ、んん……ッ」 どうして、どうして気持ちいいの…… 俺も春馬さんも男なのに。 こんなの、知らない。 「はっ、あん、あぁ……い、んああッ」 早まっていく手の動きにガクッガクと腰が震え、鈴口から白い液体が飛び出した。 弧を描いたそれは春馬さんの手首を濡らし、俺の顔は猛烈な熱を帯びる。 「はっ、はぁ、……ごめっ」 拭き取ろうとした俺の目の前で、春馬さんが手に着いた白濁の液体を舐めるからビクンッと体が大きく跳ねた。 「春馬さ、ん……ッ!?」 「気持ち良かったんだろ。お前、イクの早すぎ」 「ッ」 初めて見る春馬さんのフッと笑う顔に心臓が鳴る。 汚くないの、かな…… 春馬さんがバイだと言っていたのは、本当なんだ。 驚きと羞恥に頭が混乱する。 それに、疲れてしまった。 その場にすとんと落ちるように尻餅をついて、肩で息をする。 「大丈夫か?」 「はぁー……はぁ、大……丈夫、です」 「……まっじで弱っちい奴だな」 目をつぶったらフワッと体が浮く感覚がし、俺はベッドの上にそっと寝かされた。 と、同時にここが俺の部屋じゃないことに気づく。 「春馬さ……ここ、違うっ」 「ああ? 別に良いって、まだ誰も帰って来ねえしちょっと休めよ」 そんなことを言われても…… 俺の部屋は父である三門敬三さんの空き部屋を借りたものだから、あの部屋でも十分緊張はする。 だけど春馬さんが俺を部屋に入れたこと自体が驚きで仕方ないんだ。 2週間、名前すら呼んでくれなかったのに。 仰向けになりながら、枕の端をキュッと掴む。 ……春馬さんの匂いがする。 春馬さんはいつも甘い香りがしていて、強すぎないそれは俺の好きな香りでもあった。 だから、こんなに近くで触れていると心臓発作が起きてしまうのではないかと不安だ。 「夏希の父親……奥さんが子供を産めない体だったみたいだな」 「え?」 デスクに向かった春馬さんの言葉に目を丸くした。 「人柄の良い人だったらしいし、民間新聞に載っていたんだよ。近所インタビュー的な? 夏希を引き取る前、奥さんがいたけど子を産めない体質だと知って奥さんから離婚を迫られた、て」 「…………はい、父さんは子供が大好きな人でした。だから、妻だった人はそれがどうしても苦しくて離婚を迫ってきたみたいです」 俺の実父と親友関係に当たる豊彦さんは、実父が過労で亡くなった後真っ先に俺を引き取ってくれた。 その時の記憶は薄らとしか残っていないけど、近所の仲が良い人達はみんな口を揃えて優しい人だと語る。 その分疎まれていることもあった。 本当に、優しすぎる人だったんだ。 「俺には、分かんなくてよ。両親も祖父母もみんな元気で、身内や友人の死も何も知らないんだ。だから……お前の気持ちとか、正直言って全然分からねえ」 春馬さんの優しい声は、初めて聞いた気さえする。 「自由に使える金もあるし、女だって簡単に手に入る。ルックスも学力も自信があった。俺は人生の挫折も知らねえからすげえナメてんの……お前が過呼吸になって泣いてても、その感覚が分かんねえんだよ」 「……」 春馬さんと目が合うと、なぜか恥ずかしくなって逸らした。 真面目な話をしているのに、どうしてドキッとしてるんだ俺は。 「ひっでえ奴だろ」 「そ、そんな事ないっ! ……です」 熱が上がって勢いよく起き上がってしまった。 驚いて目を見開く春馬さんに、困惑して目が泳ぐ。 「春馬さんは……俺が苦しい時、父さんみたいに俺の背や胸をなでてくれた。初めて、なんです……父さん以外の人にされるの。だから、嬉しかった。ほんとにヒドイ人は、そんな事しない……」 「…………」 ジッと見つめられている感覚があって顔を上げられない。 枕を手にとって顔を隠しながらチラリと春馬さんの方を見たら、案の定目が合って「ぶふっ」と笑われた。 「マジで小動物みたいだな」 「なっ……」 イスを立ち上がった春馬さんがこちらに歩いてきて、ベッドに腰掛ける。 そして優しく腰を引き寄せられ、唇が重なった。 「ん、ふっ……」 何となくいけない事だとは分かっているのに、春馬さんだと気持ち良くて目を閉じてしまう。 キスって、こんなに気持ちいいんだ…… 「……逃げろよ、淫乱」 「ッ、淫乱じゃない……! 春馬さんだって、合コンとかホテルとか、いっつも女の人の事ばっかりのくせにっ」 「何ー? 俺とヤッてる女が羨ましいの」 「‼︎ ち、違いますっ……そういうの、やだ!」 春馬さんの顔目がけて枕を投げ、ダッシュで部屋を出た。 気持ちいいとか、思った自分が恥ずかしい。 春馬さんにとっては、俺なんてセフレの1人でしかないんだ。 絶対、期待なんかしちゃダメだ。
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