eps.1

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「…あれ?」 「お?」 夕刻の駅の雑踏の中で、よくまあその人を見つけたものだと思った。 ターミナル駅のこの広い構内の、しかも一番人が溢れている時間帯に、こちらが視線を泳がせていたからといって、彼が自分の視界に入る確率は何千も何万分もの一のものだろう。 「なんだ、久し振り。…待ち合わせかなんか?」 駅の柱に凭れて立っていた貴央(たかひさ)に、昔馴染みの彼が歩み寄ってくる。行き交う人の流れの間を縫ってこちらへ向かってくる様子は、どこか歩きなれない子供のようにも見えた。 「そんなとこ。お前は?」 「俺はあと一件クライアントんとこ寄って、直帰。なんだ、デートか。良いなあ」 目の前まで辿り着いた彼は、昔と変わらない笑い方で笑んだ。随分長いこと顔も合わせていなかったのに、こんな風に突然会ってしまっても、時間感覚というのはちゃんとその当時に戻るものなのだなあと感心した。 彼、一ノ瀬瑞希(いちのせみずき)とは中学、高校と同じ学校へ通った。お互いの親友が友達同士ということもあり、何度か顔を合わせることがあって、そのうちに友達になっていた。親友、というのとはまた別に、貴央にとって瑞希は、その少し控えめなところとか、でも人の話をきちんと聞くところとかが好ましく映って、どちらかといえば人間関係にがつがつしていなかった貴央のすぐ傍まで、いつの間にか来ていたような相手だった。 「どれくらいぶりだろな。……この前の同窓会以来?」 「それ、どんだけ前の話だよ。もう三年も前のことだぞ」 おぼろげな記憶を披露したら、瑞希が苦笑して訂正してきた。でも確かにそれ以来会っていないのだから、一番新しい瑞希の記憶は三年前のものだ。
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