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「お前、会うたびに髪型変わってるな」
この前のクラス会のときは確か男らしい短髪をワックスで固めたような髪型だったように思う。今はそれに比べるとやや全体的に長くなっていて、毛先が緩くウエーブを描いている。赤色のハイライトも入っていて、随分自由な規律の会社なのだと知れる。
「よく覚えてるなあ。カノジョ出来るとちょっとは人のスタイルとかも気にするようになるのか?」
学生時代、クラスメイトの女子が髪の毛を二十センチも切ったのに気づかずに、随分ネタにされたのを覚えていたのだろう。ちょっと馬鹿にしたような笑いも、嫌味にならないのが瑞希の物言いのやわらかいところだ。
「いや、別にそういう訳じゃないけど。同窓会の時の写真、アルバムに貼ってあるから、覚えてただけで」
「そお」
ちらりと瑞希が腕の時計を見た。そういえば先刻クライアントのところへ行くと言っていたのを思い出す。引き止めてしまって悪かった、と言うと、瑞希はまだちょっと大丈夫だと言った。その笑みにちょっと安心する。
「約束なかったら飲みにでも行けるんだけどな」
「いや、俺、まだ仕事中だし」
手に持っていた大きな茶封筒を示される。多分、何か資料が入っているのだろう。くるりと思考を巡らせて言葉を継いでいた。
「じゃあ、今度二人で飲みに行こうぜ。いつ頃都合つく?」
瑞希は、貴央の突然の言葉に驚いたようだった。一瞬、その黒くて丸い目を更に大きく見開いて、ぱちぱちと瞬きをする。そして、考え込むように口許に指を持っていって、指先で唇に触れていた。
「え…。……会社戻らないと分からん。出てくるとき、会議のスケジュール調整してたから」
「そっか、じゃあ…」
そこまで言った時に改札の方から声を掛けられた。
「貴央」
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