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普通にやりとりのできる彼に、いつのまにかすっかり恐怖心はなくなっていた。千夏は自分の席に腰を下ろすと、マジマジと彼を眺める。
たしかによく見ると全体的に若干半透明ではあるのだが、よく見ないとわからない程度だ。他の人にはこの幽霊男自体が視えてはいないのだろうが、千夏の目にはそう見えた。
自分の席で頬杖つきながらサブレーを無心で食べる彼を眺めていたら、向かいの席から大きなため息が聞こえてきた。
声のした方に視線だけ向けると、晴高だった。
「……あんた、すごいな。幽霊と会話できるのか」
呆れたような驚いたような、そんな声で晴高がいう。
「え……ちょ、ちょっとまってください。私も、初めてですから。こんな風にコンタクトとれたのなんて」
とそこに、それまでハラハラした様子で千夏たちのやりとりを見ていた百瀬課長がスッと目の前にやってきた。
いつの間にか、その顔にはニコニコとした満面の笑顔が浮かんでいる。な、なんだろうとちょっと引きぎみなる千夏の肩を、百瀬課長はポンと叩いた。
「ああ、ごめん。これじゃ、セクハラになっちゃうよね。ごめんごめん、つい嬉しくてね」
「嬉しい……ですか?」
「ああ。晴高くん。良かったじゃないか。パートナーが見つかって」
百瀬課長はニコニコしたまま晴高に言葉を投げた。当の晴高は、相変わらず無表情の仏頂面だったが、ややあって小さく頷く。
「はい。そうですね。ここまでの適任は、そうそういないと思います」
「だよね。じゃあ決まりだね」
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