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「ど、どうしたの? 大丈夫?」
思わず幽霊男にそう尋ねてしまい、千夏はしまったぁ!と心の中で後悔した。また、幽霊男に話しかけてしまったじゃないか。
晴高がやれやれという視線を投げてくる。
あああああ、もう、今日の私、ダメすぎる。
はぁと嘆息をついたそのとき、幽霊男がぽつりと何か言葉を発した。
「これ…………食べてもいいんですか?」
弱い、いまにも空気に霧散してしまいそうな声。でも、驚きと嬉しさが混じりあったような響きがあった。
幽霊の声なんて聞いたのは初めてだったけれど、こちらから会話を初めてしまった手前無視もできない。
千夏は生きている人と同じように接することにした。
「ええ。どうぞ。アナタにあげたものだから」
「ありがとう……ございます……」
幽霊男は涙を拭うこともせず、膝の上に置いていた右手をデスクの上に出すと、ゆっくりとした動作でサブレーの袋を手に取る。
その瞬間、不思議なことが起こった。
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