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その後数分遅れて現れたミコトは、しれっとセオドアがエスコートして混雑を避けて連れてきたようで、プンプンと怒るミコトと対照的に満面の笑顔のセオドアがヘロヘロな二人の前に到着したのだった。
「ミコト、セオドア兄さんが本当にマイペースでごめんな。久し振りに会えるって浮かれてたみたいだよ?」
「いいえ、ユーゴ様が謝ることは有りません!!全く、あの人と来たら……モゴモゴ」
串に刺した魚の塩焼きをお裾分けしながらユーゴは、自分達とは別の意味で疲れた顔のミコトに謝っていた。
一方、ミコトは魚を受け取りながらセオドアの文句をユーゴに愚痴ろうとして何かを思い出したのか、急に赤面するとモゴモゴと歯切れが悪くなってしまった。
セオドア兄さん、会って早々にミコトに何やらかした~!!?
「ちょ~っと再会のちゅーしようとしただけなのに、ミコってばビンタはないわー。あんま痛くないってことは照れ隠しかよ、可愛いなぁー。」
「照れてません!!魚を突っ込みますよ!!?照れてませんからね!!?あんな大勢の人前で何やろうとしたか、自分の胸に聞いてください!!」
ユーゴが渡した焼き魚は、真っ赤になってるミコとによって速やかにセオドアの口に捩じ込まれた(笑)
まあね……あまりスキンシップの多い風習の一族じゃなく、イチャイチャはオープンにしないという慎み深い性格のミコトならそうなるよねぇ。
「セオドア兄さん……まさかとは思うけど、ミコトの照れた顔見たいが為にちょっかい掛けてるんじゃ。」
「その通り!!久々に不足していたミコト成分を急速に補給するには、色々とやってみなければな♪」
ジト目で兄を睨むと、物凄い良い笑顔で肯定したので、ユーゴは心の中で「この、リア充、爆発しろ!!!!」と先祖代々伝わる慣用句を叫んだ。
「テディの変態!!恥ずかしいから、人前でしないで下さいってば!!」
悪びれないセオドアに、御説教モードに入ったミコトだが、多分セオドアは「そっかぁー二人きりなら色々とやって良いっていうことか♪」って解釈して、聞いちゃいなかった(笑)
(ミコトも本気で嫌なら、急所に一撃して沈めれば良いんだよねぇ。無意識なんだろうなぁ~、武力行使しないのって。)
(毎回やってるな。もう、これは挨拶みたいなものか!?)
このあとには、両親のイチャイチャが待ってるのにもうお腹一杯なユーゴ達だった。
だが、門の前でグダグダしてるわけにもいかないので、手荷物を持ってホールに入ると執事長がメイドと執事達の整列する先頭で真っ先にお辞儀をして出迎えてくれた。
「ユーゴ坊っちゃま、お帰りなさいませ。アレックス君も元気そうで何よりですな。ミコト君は、おやまあ~、セオドア坊っちゃまと一緒ですかな?良いですな、若いものは。」
白髪をピシッと撫で付けて、皺一つ無い制服を着こなした執事長が、ニコニコと出迎えの言葉と共にユーゴから小さな鞄と上着を受け取ってくれた。
「ただいま~、じいや。兄さんったら、はしゃいじゃってさ~。あ、そうそう!!失恋ドンマイって入場ゲート、一番目立ってるよ!?卒業より何で失恋の看板の方がデカイの~!?」
「それはそれは(笑)じいやには憶測でございますが……皆さん坊っちゃまの失恋を癒そうと気合いが入った結果では?」
ヴィイクトリアとの婚約破棄は、貴重な通信用の魔道具で連絡が有った為、装飾を変更するのに歓迎会準備してた領内全部の民が知っているし、大体の成り行きも王都で公表された『事実』よりも、何故か『真実』の方を大多数が知っている状態だ。
「正式発表では、王女を御座なりに扱い、親睦も深めずふらついて居たから候補から脱落した。あくまでも、ユーゴが卒業までに基準を到達できずに、力不足で白紙になったとされたからな。辺境の領地以外じゃそういうことになってんな。」
「ホントに情けないことに、何処からもまさかって声が上がらないって(笑)やっぱり三男は、見た目も中身も平凡って納得されたんだよなぁ。」
ユーゴの容姿は、小柄で茶髪に白い肌という貴族にしては地味な、どちらかと言えば普通の何処にでも居る平民っぽい見た目だ。
唯一、先祖帰りしたという、角度次第で虹色の月が浮かび上がる珍しい瞳だけは他に見ないものだが、稀に見える小さな瞳の模様など誰にも気付かれてないのだった。
長兄のグレンは父親に生き写しの強面で、セオドアは顔立ちこそ母親に似ているが体格も良くて良いとこ取りだし、ユーゴだけが余計に色彩的にも体格的にもチョコンとしているような印象を受ける。
よく知らない連中には、第一印象でユーゴは、ひ弱で頭脳も一番になれない中途半端者と思われていたらしい。
そして、無責任に面白そうに憶測で盛り上がっては、冗談交じりに広まっていたのだ。
どうせ、三男坊だからいずれは平民に落ちる。
だからそんな噂があっても笑い話で済むし、支障はない、そう判断した故の気軽なジョークであった。
親密な距離に居た王様も、十分に社会に出て経験を積んだ立派な大人の兄達をすっ飛ばして、本当に辺境伯を卒業したてのユーゴが継ぐのかとビックリしたくらいだから、他のもの達など推して知るべしである。
「さあさ、坊っちゃま達。お疲れでしょうから、当主様にご挨拶したら今日はお部屋でお休みください。疲れていても案外自分では気付かないものですよ?」
「えぇー、着替えたら祭りしてるの見に行きたかったのにな。」
ぶーぶーと文句を言ったユーゴだったが、両親に挨拶して、新婚さながらのイチャイチャを見せ付けられて部屋に戻ると、ばたんとベッドに寝転んで、あっという間に眠りの世界へ旅立ったのだった。
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