歓迎ムードが俺の心を削ってくる……。

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「まあまあ、ユーゴが怒るのも無理無いけど、猪はガッツリ肉が取れるだろ?ゴブリンなんかよりマシだったんだって。」 「うぅー!!害虫と戦い、より良い土の配合をして、冬を越えたら収穫するだけだったカブを横取りしたんだよ!?食うって事は自分達が食われる覚悟が有るって事と見た!!」 素揚げした芋に砂糖を使った蜜を絡めたあのオヤツが、お高い砂糖を自作すれば、お手軽値段で食べられるとほくほくしていたのに!! 蜂蜜は安定して取れないし、季節毎に味が違う。 それはそれで長所でもあるが、稀に蜂蜜が体質に合わない者もいる。 ユーゴ自身も調味料としては、クセのない砂糖が使い勝手が良い。 蜂蜜芋は美味しいが、蜂蜜の味と値段の主張が強いのだ。 一番は蜂の巣から回収するのも危険だから、一匙で目玉が飛び出る値段の事が有るという事だ。 カブの収穫は命懸けじゃないが、蜂蜜の採集は命懸けだ。 机をバシバシ叩いて駄々っ子のように愚痴をぶつける弟ユーゴに、セオドアは苦笑しながら全滅させて来ると言って宥めた。 どうせ、暫くしたら他から流れてくるか多少取り零して繁殖するのだから、見付けた分だけは全部狩っておこうと心の中で付け足した。 その後、ミコトがセオドアから話を聞いて、ユーゴが丹精込めて栽培プロジェクトチーム作ってた作物が荒らされてたと知り、鬼のように猪を狩り尽くしたらしい。 最後は、怖じ気づいて逃げ腰の猪が憐れに見える程の鬼神ぶりだったようだ。 「その首よこせー!!!!アハハハ!!首が無ければつまみ食いも出来ませんよね~!!?」ズバァン!! ブギュォオオオオ!!?ズドォーン……ワァアアア!!ボスガカラレタゾ!!ヤッタゼー! 自分の数十倍の重さの有る、一際巨大なボス猪を倒して、ミコトがふんっと鼻息を一つ吐いた。 「ミコは……本当に可愛いな~♪ほらほら、ムキになって追い掛けちゃって。ふふふふ♪」 「あの鬼神ぶりを見て可愛いって言えるお前さんの感覚がわかんねぇよ。頼もしいけど、あーゆーの嫁さんにしたら喧嘩した時に怖くね?」 槍を担いで手持ち無沙汰なジョルジュが、血塗れでボス猪の首を一刀両断したミコトを眺めながらぼそりとセオドアに溢した。 「何言ってるんだい。俺がミコトを本気で怒らせる時は、俺が悪いのさ。日々のじゃれ合いなんていつもの事だよ。ちょっとだけ怒ってる顔が可愛いんだ!!」 「ヘイヘイ、そーかよ。(まあ、こいつが何としても生き残ろうって気概に、アイツ等の存在が有るんだから良いけどよ。)」 ハンター達が、せっせと荷車に獲物を乗せて運び出すのを指揮しつつ、セオドアはニコニコ顔だ。 腐りやすい部分を今日中に調理して村人に振る舞ったら、後は保存用と出荷用に別けて職人に受け渡される。 広範囲に包囲してしらみ潰しに狩ったので、当分は害獣被害は治まるだろう。 今回は利益率の高い猪だったが、ゴブリンやジャイアントホッパーと言った実入りの少ないモノだったら目も当てられなかった。 「ま、ユーゴの就任祝いに華を添えるのに肉祭りってのは良いかもな。あれだろ?グレンは直接戦闘特化、お前は器用だが地道に事務仕事が苦手、個人の戦闘力は圧倒的じゃぁないがユーゴはバランスが良い。人を使うのも上手い、末っ子が統治者向きとは、辺境伯じゃ無ければ[宝の持ち腐れ]だったな。」 「ハハハ、全くだよ。新しい技術にも柔軟に対応するし、ユグドラシルの全容が解明されていくと変わった古代の遺物も出てくるからな。従来に固執しすぎず、かといって過去を軽んじない、常に何処か飄々としてるからな~。我が弟ながら、良く判らんよ。イモ食ってる時は小動物っぽいんだが(笑)」 食べ物、特にイモの事になると子供っぽいが、一歩引いて冷静に流れを見ている弟をセオドアは、根本的な部分で、天才を通り越して鬼才だと思っていた。 自分達よりも大分年下の弟だが、きっと自分達とは見えてるものが違うのではという程、思いもよらない発想する場合がある。 「ユーゴは………冒険者としても良い線行くだろうなぁ~。いつも日常生活に発見をしてたユーゴなら、きっと迷宮や遺跡の探索は楽しいだろう。本当は一緒に冒険したいけど、領地大好きで発展させるって張り切ってるからな。」 「ああ、古文書とかウキウキと調べそうだよな(笑)そんで、古代のレシピの再現だーって大騒ぎするとこまで一セットな。」 樹液に群がるアリを見て、指に着けて舐めようとしていた幼い日のユーゴが二人の脳裏によぎった。 長男グレンの武芸の指導で訪れていた間に、幼馴染み三人組は毎日のようにあれこれとやらかしていたというのは、本人達だけ気付いてなかった。 「ふぇっ……くしょーん!!」 「おわっ!?ユーゴ、こっちに唾飛ばすなよ。汚いな!?」 その頃、過去五年間の交易記録を漁っていたユーゴとアレックスは、埃っぽい部屋でくしゃみと戦いながら奮闘していた。 「だって、ここの埃がスゴイもん。……う~ん、大蛙の皮が今年少ない上に納期が遅いな。テントや外套に必要な大きさも……困ったな。」 「ユグドラシル産でないとすぐに破れるからな。重ねるか?」 「重くなるし、強度や値段がねー。旅人御用達品で売れ筋だから、職人も待ってたけど。どうしたのかな?」 埃っぽい資料を束ねて、とんとんと机の上で揃えながらユーゴは眉をへにょんと下げた。 セオドアがユグドラシルの付近の大迷宮に長年攻めあぐねていた新しいエリアがあり、そこに到達した冒険者が出たと言っていた。 新たなエリアに集中して、手前の素材採集担当する人が減っているのだろう。 「商人さんを通じて向こうのギルドに依頼出さないとね。それと新素材のチェックも有るか……。乾燥キノコが多いってことは森みたいなエリアだったのかな?」 食用でなく薬に使う種類がリストに有ったので、今までの仕入れ値段を調べると、遠くから仕入れてたの種類もチラホラみられて、輸送コストと品質を考慮すると、ユグドラシル産の方が単価は高いが薬に使う量が少量になるのでお得そうである。 ただし定期的に纏まって入るなら良いが、急に前の仕入れ先を切るといざという時に物資が不足するかも知れない。 元々は特産としてその地域が力を入れている品なので、供給量は比較的安定している。 「この辺の調整が神経使うんだよな。」
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