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時は経ち、再会の序章は……アレでした。
大々的に辺境伯の世代交代して二年の時が経った。
その間何度か野性動物の襲撃も有ったが、概ね砂糖の原料の冬眠カブ栽培が安定し、良い特産品になっていた。
「え?迷宮の最奥のボスを倒したら道が現れたの!?」
「そーそー♪いやぁもう、行った奴の話によると森は続いてるけど、全体が真っ赤だそうだよ。黄色や橙色も混じって燃えるように美しいんだって。」
久々に帰ってきたセオドアがその足でユーゴの執務室に休む間もなく、飛び込んできた。
彼がキラキラした笑顔で語るのは、迷宮都市で今話題の新しいエリアの発見だった。
数年前に奥に進めるようになったと聞いていた。
てっきり最奥のボスを倒し迷宮を制覇となったものと思われていたのだが、ボスの身体が地に伏した背後にズズンと重い音を響かせて階段がせり上がり、上に続く通路が出来たのだ。
「真っ赤?木が燃えてるの?危なそうなエリアだね。」
「違う違う。登ってみた奴等が言うには木の葉が色とりどりの赤や黄色に染まっていてそう見えるらしいんだ。この辺もくすんだ黄色や茶色は珍しくないけど、迷宮のはまるで花弁のように綺麗な色らしい。」
どうやら興味本意でちょっとだけ覗いてきた冒険者は、ボスを倒したら装備もボロボロで資材も尽きかけていたので、一旦退いたそうだ。
その後、迷宮のワープ機能を駆使して何組かが例の階段まで行って少しだけ探索したが、今までと同じ森エリアではあっても、出てくる魔物や採集品はガラリと変わっているようだ。
特に周囲の国々も注目したのが、所々に露出した高純度の金属の鉱石だった。
中には希少な種類も有り、たまにしか採れなくても純度が高くて十分な量だった。
「ふぅん、それで最近の流通品に金属が増えたのか~。通常の素材は引き続き一定量の依頼してるし、新製品も調べなきゃ。セオドア兄様ありがとう!!」
「アハハ♪人も居ないしセオドア兄さんで良いよ。それとも、てお兄たんでも良いぜ(笑)」
上機嫌でウィンクして両腕を拡げる次兄に、ユーゴは顔を真っ赤にしながら遠慮した。
さしすせそが上手く言えなかったチビッ子の時の呼び方を持ち出されて、自分も兄もいい歳をして恥ずかしいやら、些細なことを覚えてくれてて嬉しいやらである。
「と、兎に角!!流通の移り変わりをこまめに把握しておく事に集中しないと!!兄様も疲れてるんだから、早く休まないと!!」
「悪い悪い♪新たなエリアなんて未知の領域、ついはしゃいじまった。変わったお土産見付けたら持って帰ってくるぜ♪怒んなって(笑)」
子供の頃のようにユーゴの頭をワシャワシャと撫で回すと、セオドアは鼻唄を歌いながらドアへ向かった。
宿に仲間を置いてきて直行で来てるから、早く帰らないといけないらしい。
「あ、そうだ。言い忘れてたけど、何か王国の騎士が大勢彷徨いてたぜ?冒険者に新しいエリアの調査団でも依頼されるかも知れないな。その内にこっちに来るんじゃないか?」
成る程、新たな迷宮都市の特産物が有るなら現地調査して国益に繋げるというのもわかる。
国の政策で、直接現地に近い辺境に調査団派遣も有るだろうな、とユーゴは思ったのだが、ふと引っ掛かるものを感じた。
(あれ?市場調査だけなら兄さんが態々言う程大勢で騎士達が来てるものなのか?俺のところに聴きに来て、ユグドラシルの街に行けば良いだけ……まさか!!!)
嫌な予感は半分当たって半分外れた。
ユーゴは先走ったどこかの貴族や豪商が私兵を率いて調査団を作り、押し掛けてきたのではと思ったが、一応はちゃんとした王国の調査団だった。
そう……[一応は]というのが厄介で、率いていた中には長兄グレンと変わらない年若い隊長も居て、表面上は品行方正であったからこそ地獄の辺境訓練を未経験な者達だった。
二十歳そこそこのユーゴとは十歳以上はなれていて、隊長を任命される実力者はどこかユーゴを軽んじる雰囲気があった。
応接室で異国の高級茶を出したが、老齢の総隊長と同年代くらいの騎士はお礼をいいつつ和やかに飲んでくれたのだが。
若い騎士の前に置かれたお茶は口も付けられずに冷めていっていた。
興味深くお茶を分析しながら飲む学者のような人物とツーンとした秘書の文官、総隊長と副官二名の五人が部屋に居ると、いくら部屋が大きくても圧迫感があった。
こちらもアレックスと長兄グレンとユーゴ、そして補佐に回ってくれている先代である父親ソーゴが居るので総勢十人の成人男性が詰めている事になる。
(うわ~、見た目も物理的にも暑苦しいなぁ。何の話かは聞いてみないといけないけど、若い副官と文官の視線が嫌な感じだな。)
「それで?辺境に大勢で来られたのは、やはり新たなエリアが始まりの樹の迷宮に発見された事に関係が有るのですか?」
ユーゴがそう切り出すと、文官がジロッと一瞬睨み付けて、知らん顔で父親のソーゴに向かって資料と勅命書を差し出した。
総隊長が直ぐ様、オイッと咎めるように声を掛けて、その資料と書状をサッと奪うと、ユーゴに改めて差し出した。
「秘書官殿、勘違いめさるな。此方の辺境伯はユーゴ殿である。先代は相談役として臨席されておるのだ。」
「存じておりますとも。ですが、御飾りの当主様に渡しても、意味がないでしょう。王国の代表としては、無駄に重要書類を見せて回る訳にはいかないのです。」
ツーンとした態度のまま、ユーゴに侮蔑の視線を送る秘書官は続けてこう言った。
「こんなに立派な兄君を差し置いて爵位を継いだので、どんな天才かと思ったら、まるで平民のようではないですか。王女殿下に婚約破棄されるわけですね。いくら爵位があっても今更王女殿下の婚約者には成れないと言うのに。」
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