時は経ち、再会の序章は……アレでした。

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二年前、王女の失態を無かった事にするためとはいえ、ユーゴが汚名を敢えて被ったのは貴族間では公然の秘密である。 高位の貴族程実際の事の発端の現場に遭遇しているので、その事件の真実に近い所を把握しているが、平民と位の低い貴族にはいまだに公表された捏造の方を信じているものも居た。 ユーゴ本人は、これっぽちもヴィクトリアとよりを戻そうなんて気持ちはない。 そもそも、故郷に帰った瞬間から忙しくて、すっかり記憶の彼方に追いやって、今の言葉を聞くまで綺麗サッパリ忘れていたくらいだ。 「………………あぁ!!そう言えば、俺が王女殿下にフラれた理由を、能力不足って事にしておいたんでしたっけ!!?訂正し忘れてましたね、グレン兄上!!」 「ふむ?………ああっ!!あれか!!俺も辺境軍をしごくのに忙しくて、コロッと忘れていたぞ!?いや待て、今更長子相続だとか言い出して、クジョー公爵家の家督相続にケチを付ける気じゃないだろうな!?嫌だぞ、俺は経営なんぞサッパリなんだ!!父上は陛下と懇意だったのだから、言ってくださったのではないのか!?」 「これ!!二人とも、はしたない!!使者達の前でする話では無かろう!?ワシもそんな些細な事なんか忘れていたぞ!?それよりもユーゴ、母さんと旅行するからって父さん、お前に程々の期間過ぎたら陛下に文を出すように言っておいたろう?」 ユーゴもグレンも父親も御互いに、王宮への撤回要請と王女をそろそろ赦すという旨をしたためた書状をとっくに出していたと思っていたようで、今になって「あれ出してなかったっけ!?」と焦った。 王女の厳しい上に質素な修道院行きも、元王太子の地獄の下っ端兵士生活も、ユーゴの気が済むまで延長されて良いと言われたので、放っておいたらユーゴ本人達も忘れていた。 「何言ってるんすか!?新エリア攻略ラッシュで山盛り仕事だったのに、ユーゴには無理ですよ!!公爵様が、いつまでも書状に取り掛かれないのを見かねて「やっぱり、忙しそうだし、ワシから言っておいた方が角が立たんだろう。王女の謹慎を解く旨も書く必要有るし、王都に行くからついでに出してくる」って言ったのでは!?」 アレックスのツッコミに、そうだった~、と額をピシャリと叩いて天井を仰ぐ、その父親の姿に長男と末っ子は深々と溜め息を吐いた。 引退して愛妻との旅行でウキウキしてた父親は、強面の割にはメチャクチャ舞い上がってて、王都に着いた頃には、そんなことより話題のスイーツ巡りにはしゃぐ妻に終始デレデレしていたのだった。 「ということは………あぁ~、ヴィクトリア殿下の適齢期はとっくに過ぎて、修道院に馴染んじゃってるかな?元王太子殿下はガッツリ鍛えられれば良いと思うけども!!」 正直なところ、ユーゴ達にとっては、シスコンポンコツ王子のギルバートが廃嫡されても、より優秀なエドガーが王太子になったので、むしろ根性叩き直されるまで帰って来んなだった。 ヴィクトリアは脳内お花畑が修正されて落ち着けば、諸外国のそこそこの縁談を持ってきて……となっても良かったのだ。 流石に修道院に放り込まれて婚期を逃すのは、高貴な淑女として教育を受けた身では可哀想だろう。 軒並み同期の令嬢は嫁いだり、女傑ならば婿養子をとって実家の采配を奮っているのだ。 だが、結局はスポーンと三人ともが御互いに忙しさで、書状の事など脳内から抜け落ちていたせいで、大体が二十歳までには婚約が決まる王国では完全に行き遅れたのだった。 「……………どうしよう。ヴィクトリア殿下、悟りでも開いて無いかな。めっちゃ聖人君子に変身してないかな?」 「無理ではないか?公衆の面前でビンタするような我の強い姫君が、二年そこそこで穏やかな聖母になるとは思えん。むしろ、怒り狂っておるだろうな~。」 顔面蒼白なユーゴを横目に、グレンは他人事のようにメイドに新たな茶を煎れてもらうと、渡された資料を手にとって眺め始めた。 兵を動かすのなら、自分も目を通した方が良いと思っての事だったが、ふとある項目に気付いて眉間にシワがよった。 「父上、ユーゴ、これを見てくれ。」 「えっ!?もしかして、ヴィクトリア殿下も調査隊に入ってるとか!?」 思わずあの時のお花畑なマシンガントークと強烈なビンタを思い出して頬を押さえたユーゴだったが、グレンの示す箇所を見て同じように眉をひそめてゲッと嫌そうな声を出した。 [新エリア調査団] 原初の樹、別名世界樹ユグドラシルの現地調査を派遣した騎士団と共に遂行する事を命じる。 尚、情報に精通した冒険者を数名雇い入れ、実際の調査を迷宮内で行うものとする。 これは他国との共同作業、ゆえに国の威信を掛けて辺境伯は全力をもって支援すること。 「全力で支援すること」と「迷宮内での調査」の部分を見ただけで、ユーゴは目眩がするような感覚に見舞われた。 辺境ですら弱っちいネズミが恐ろしく強い魔物に変化しているというのに、もっと魔力の濃い原初の樹の近くにド素人引き連れて調査など、むざむざ死にに行かせるようなものである。 実体験したセオドアから恐ろしさを聞いているアレックスを含めた四人は、揃って頭を抱えた。 ましてや、幼少の頃とはいえアレックスとユーゴは、大きなネズミに危うく齧り殺されそうになったので、アレより強いのがウジャウジャ居ると聞いて、絶対に行きたくないと思っていた。 そして、厄介なものはどちらかというと、見上げるほど大きな猛獣よりも、小さくて一匹では脅威ではないのに大群で押し寄せる小動物の方だとも知っていた。 代表例は、ハチミツ採集の時に必ず出会うブラックビーという全身黒い辺境特有の蜂だ。 自分達の数倍以上大きい天敵のキラーホーネットを取り囲んで特攻掛けて撃退するのだ。 ちなみにブラックビーは一匹が5cm程度の手の枚サイズだ。 普段は大人しく、巣を攻撃しなければ平和そのものである。 「原初の樹付近は、魔力溜まりがあちこちに有る程、魔力や生命力が濃いらしい。ブラックビーも巨大化して30cm位だそうだ。セオドアが言うには、うっかり怒らせたらその時すぐに全力逃走しないとパーティーは全滅だそうだ。運良く他の善良なパーティーに出会えば良いが、痺れている内に別のモノに襲われたら……。」 「…………迷宮に入らなくても、入口付近に良く巣があるってセオドア兄様言ってたよね。羽音がするから気付くけど、慌てて迷宮から飛び出してきて枝に有った巣を引っ掛けて、医療院送りになった人良く見るんだよね?」 グレンとユーゴは、目をキラキラさせて冒険譚を話すセオドアから色々と聞き、ドン引きしたのだった。 (迷宮都市って命知らずの冒険野郎ばっかじゃねぇか!!?ああいや、弟が嬉しそうなのは良いがこれはちょっと………。) (セオドア兄さんがテンションあげあげだよ!?なんで嬉しそうなの!?下手すりゃ赤ん坊くらいのデカイ蜂がブンブンだよ!?) 当時の記憶を思い出して、実物も見たが、一抱えあるヌイグルミのような蜂(死んでる)のでかさにセオドアを引き留めようと頑張ったなぁと兄弟は遠い目をした。 「…………胃が痛いな。エドガー王子が賛成する筈無いが、何処ぞのバ……楽観的な御仁が強く説得したと見える。どうします、ユーゴ、父上。」 「うぅむ、資材は兎も角、これが普通の魔物討伐ならばいくらかの兵は融通出来るだろうが。」 「うん、どうやら認識に大きく違いが有るようですね。ところで、皆様はこの辺境で実地訓練をしているのは御存知でしょうか?先ずはユグドラシル周辺よりも弱い辺境の魔物で腕試ししてから、向かわれた方が宜しいですよ?」
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