時は経ち、再会の序章は……アレでした。

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ユーゴの言葉に仇敵に向ける様な険しい眼で睨み返してきた若い副官と鼻で嗤った秘書官であったが、総隊長と壮年の副官は喜んで実地訓練を了承したのだった。 「ちょっと!?隊長、何故そんな無駄な時間を費やさねばならないのですか!!他国は既に現地に行ってる部隊も有るのですよ!?」 「そうです!!国の勅命は、辺境伯の部隊と共にユグドラシルに調査団を送って活動することです!!他国に出し抜かれて利権を奪われては国益が!!」 では、近所のゴブリンの巣に用事があるので、ご一緒しましょう♪と、壮年の隊長さんとグレンが編成について相談を始めると、若い二人は泡を食って噛み付いてきた。 辺境ゴブリン………一回り大きい体躯と組織戦を使う、厄介者である。 王都周辺では雑魚の代名詞だが、ここでの戦闘力は王都のオーガに繁殖力付けたと同じである。 ムッキムキのゴブリンに見慣れてたユーゴ達は、王都の周辺のゴブリンに出逢った時、栄養失調の別の生き物と思ったくらいだ。 「ゴブリン……繁殖期なんですよねぇ。アイツ等、穴さえあれば良いからって、家畜や旅人も性別関係なく襲うんですよ。」 弱肉強食で弾かれた個体同士でも徒党を組んで、襲撃されれば大変危険だった。 勿論、男性は子が出来ないのでなぶり殺されて食料になる。 そしてあまりに種族として掛け離れた馬や牛等の家畜や野性動物も、散々なぶって気が済んだら食料になる。 何度も言うが、王都周辺のゴブリンと違ってムキムキのゴリゴリのマッチョゴブリンが鼻息荒く、ギャーギャー言いながら集ってくるのは、まさに悪夢である。 「まあまあ、所謂腕試しだな。我等と貴殿達、御互いに実力を計るのにも良いでしょう?」 不満たらたらで出発を急ぐ二人を、先代である父親ソーゴが尤もな理由を提示して宥めると、渋々ながらも副官と秘書官は黙った。 その間、呑気にマイペースを貫く学者先生は、モグモグと茶菓子を平らげ、お代わりのお茶にミルクをドボドボいれて堪能していた。 「では、先生は暫くこの町で滞在して休憩してください。我等は辺境軍と戦力の確認をしてきますから。」 「ふぁっ!!?なんですと!?いつの間にかそういう話になってるので!?」モグモグ 総隊長はやれやれと肩を竦めると、副官二人と一緒に部隊の待つ場所へ向かうため、グレンと共に出ていった。 残されたアレックスと秘書官もバチバチと火花を散らしつつ、支援物資の援助について意見交換を始めた。 その横でユーゴと父親ソーゴは、キョトキョトと一人着いていってない学者先生に、さっきまでの会話を簡単に説明していた。 「はぁはぁ、成る程~辺境のゴブリン退治ですか~。軍人相手にゴブリンでは実力を示さずとも一捻りなのでは?」 「いやぁ~、それがですね。うちの地方の魔物は軒並み強力でして、別名”新人殺し”なんて言われてるんですよ~。ゴブリンどころかネズミまで大型でムッキムキなんですよね~(笑)」 「っ!!?なんですと!?大型化してムッキムキですと!?これは興味深い!!学説によると魔力の濃さで魔物の大型化や能力強化が有ると言われててですね!!およそ、10%の体長及び体積増加だけで数倍の戦闘力増加が………」 ユーゴが学者先生にうっかり?辺境の生き物の話をすると、途端に目を輝かせて饒舌になってペラペラと喋り始めた。 簡単にまとめると、僅か数%でも種類によっては、大型化したりするとそれだけで単純計算でも大幅に各能力が上がる。 結果として、それらが争って強い個体が生き残るので益々強化される。 戦いの中で経験値が溜まり、戦略も考えて複雑な動きや集団戦闘をするようになる。 その事を考慮すると、体格は僅か数cm差でも環境次第で約十倍近くの戦闘能力の差が生まれるらしい。 「これはこれは、由々しき一大事。ユグドラシルとの中間地点であるこの地でも多少の変異が有るとは思っていましたが、まさか目に見える程の変異とは!!!」 いやいや!?アンタ馬車に乗ってて、たまに魔物や野性動物の襲撃されて気付かなかったのか? と、思ったユーゴだったが、どうやら乗り物酔いと分厚い防御の人壁で全く耳に入ってなかったようだ。 着いて暫く間が空いたのも、この先生が宿でぐったりしていて動けなかったのが原因だった。 「困りましたぞ~困りましたぞ~!!調査はユグドラシルの迷宮内に入るとなってますが、我々はノーマルな強さの魔物しか知らんのですよ!!ここいらの生態系の調査も魅力的と言うのも有りますが。う~んう~ん!!」 その間も学者先生の手は動き続け、モグモグとお茶菓子を口に運んでいた。 馬車酔いで碌に食べてなかったと言うが、食い意地張ってるな!? 「あの~先生?」 「うっ!!?………お、お茶のおかわりを、水分が、口の水分が!!!」 リスのように頬張っていた先生は、喉にクッキーを詰まらせてジタバタとしながらお茶を要求してきた。 ユーゴとソーゴ(父親)は顔を見合わせると、メイドに目配せしてぬるめのお茶をゴブレットで差し出した。 その後も学者先生はふぬーふぬーと変な唸り声を出しながら頭を捻っていたが、急に閃いたようでポンッと手を叩いた。 「そうですそうです!!冒険者です!!この町にもユグドラシルからの冒険者が多少は居るはず。彼等に露払いを頼みましょう!!素材は此方が買い取り、相場以上の報酬で護衛も頼みましょう!!」 まあ………知り合いというか身内にも心当たりが有るけども、どうもこの先生は戦闘についてはからっきしのようだし、戦闘のプロの騎士団は魔物を嘗めてるようだし、不安が拭えない。 無知ゆえに、とんちんかんな指示を出したり、危険行為をするなら、誰も引き受けないだろう。 逆に金に目が眩んで引き受けた冒険者が、ショボいかどうかも見抜けない場合もある。 国の面子も有るのに、迷宮都市を嘗めてる騎士団、世間知らずの学者先生に、辺境伯を年齢を理由に下に見てる秘書官、それに加えて余計な爆弾は抱えたくないのだ。 「…………はぁ、仕方ないですね。父上、此方で厳選して依頼しないと益々ややこしくなりそうです。」 「うむ……気は進まんが、あいつにも頼まねばならんようだ。」 ユーゴとソーゴの脳裏には、キラキラ笑顔で巨大生物を持ち帰る次男の姿が浮かんで居た。
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