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「なる程ね~、それで最近は騎士団が彷徨いていたのか。しかし、素人連れて迷宮に潜るのか?……表層部分なら、まだ熟知していて勝手も判るが新エリアは殆ど手付かずだし、大部隊なんて難しいじゃん?」
「だよね。俺もそう思うけど、騎士団は人数制限されるだの、迷路みたいな所の探索ってあまりしたこと無いんじゃない?案内役はどうしても必要だよ。」
居間に集まった三兄弟と父親は、各々渋い顔をしてお互いを見合っていた。
母親には、こんな心配事を報せることが避けたかったので、アレックスに手配して貰った最近出来たスイーツ店のプレオープンイベントに行ってもらっている。
次男のセオドアが呆れたように溢すと、グレンとソーゴもそっくりの岩のような強面をしかめて苦々しく発言した。
「ああ、無理なことは重々承知だ。だが、下手な輩が案内して全滅などとなったら、それこそ目も当てられん。少数に別けて、お前の信頼できる実力者パーティーと一緒に、表層部分から徐々に案内してくれんか?」
「俺の部隊もバラけて混ざる予定だから、多少はマシだろう。国の中枢では、机上の利益に目が眩んで現場を軽視する貴族が今は発言力強いらしい。」
夕刻、グレンの管轄の巡回部隊、ソーゴの親衛隊と王国の調査部隊、人数にして半分ずつ。
ゴブリン退治に奔走した王国部隊は、精神的にも肉体的にも削られて、辺境軍に支えられて帰ってきた。
「あぁ~ボロボロだね~。やっぱり、大ネズミから始めた方が良かったかな?あれも下水道で定期的に間引かないといけないし。」
「強さ的には良いが、下水は迷路みたいで視界が悪い。落ちて迷子になって襲われると危険だ。臭いしな。」
アレックスが治療費と物資の損耗を計算して帳簿に書き付けながら、他人事のように言った。
今回、王都の騎士団のお陰でマッチョゴブリン退治に駆り出されなくて、ホッとしたのも有るだろう。
ユーゴも頷きながら、バルコニーから半泣きで治療される騎士団の様子を見ていた。
(いつも蹴散らしてる子供サイズのゴブリンとは違って、マッシブで目の色変えてケツ狙ってきたら、トラウマだよな。今年は行かなくて良かった(笑))
「でもさ、迷宮はこれ以上強いんだよ?ここ程度で根をあげてたら、学者さんも守れないよ?」
「そうだな。普通に今の俺達と実践形式で手合わせしても、勝てるくらいじゃないと危ないぜ。見ろよ、この治療費。」
ユーゴの側近兼親衛隊長のミコトに急かされながら、食事の列にヘロヘロと並ぶ掠り傷の騎士達も一様に目が死んでいた。
「しゃきしゃき動いてください!!貴殿方は膝擦りむいた程度でしょう!?明日のためにガッツリ食べて早く休む!!明日は今日よりは多少奥地に行くんですよ!!寝不足と空腹でよろけていたら、あっという間に食べられますよ!!」ビシッ
ミコトを綺麗な麗人と思って嘗めてたら、身の丈程の大剣を分回してたっていう、この衝撃な(笑)
その場を見なくても微かに聴こえる声で、察したユーゴは御愁傷様と呟くと、執務室に戻った。
尚、何時ものようにセオドアが別の窓から覗いて、うちの嫁いつ見ても格好良いな~、とデレデレしていたのは無視された。
「う~む、俺は巡回部隊の総括だから付き添うことは難しいが、アレ、予想以上に弱くないか?」
「ぬぅ……最近、高齢の将軍が引退して緩くなってるのかも知れん。定期的に辺境に訓練に来るのも減っているから、地獄の特訓を知らん奴も居るのだろう。」
長兄は派遣した後に、残りの辺境部隊全体の指揮を執ったり、周辺に出来た魔力溜まりの調査が有るので、そうそう辺境を留守には出来ない。
ユーゴも当主で処理する仕事が今のところ山積みだし、幼馴染みも各々リーダーに付いてるのだ。
ミコトはユーゴの護衛兼害獣大量発生等の有事の際の指揮官。アレックスは秘書官と護衛と政務担当。
アレックスに関しては勿体無いと言われる気がするが、会談時の暗殺や移動時の盗賊、魔物の襲撃を考えると、自力で防衛できて尚且つ戦闘員としても優秀なのは、有り難かった。
「グレン兄上の部隊、第十一部隊から後を同行させるので大分忙しくなるね。」
「ああ、それ以上は割けないし、メインの第一部隊は絶対に貸せない。まあ、目的からして中規模遊撃部隊の五部隊ならば、適任ということもある。」
第一部隊から第五までは主力部隊で辺境の国境付近に砦が三つ有り、交代で常駐している。
第六から第十部隊は巡回部隊、そして便利屋のようにアチコチ駆り出されるのは、フットワークの軽い遊撃部隊の十一から十五までの中規模部隊だ。
有能な人間の集まりで、不足の事態に強いのも特徴だったので、辺境伯側としては渋々ながら調査隊に組み込むことを決めたのだ。
ただし、指揮権は別で隊長と王国の総隊長が話し合って協力体制としてもらった。
王国の指揮下に入ると、経験から退くべきと判断しても突っ込まされる事態も有り得る。
危険行為も抑止できなくなるし、何よりも案内役のサポート位置が機能しない。
冒険者側の緩衝材として着いていくのに、言いなりでは困るのだ。
案内人の忠告は、相手が元平民だろうが貴族だろうが聞いて貰う。
その為には、睨みを利かせる存在が態々必要だというのは、情けないことだ。
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