時は経ち、再会の序章は……アレでした。

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そしてもっと厄介事が持ち上がるとは、この時は思ってもなかった。 「え~と、大体の戦闘力と辺境での戦闘にも馴れたかな~?総隊長さんの所は大丈夫だけど、まだまだ危なっかしい部隊も見られるんだよな。出発もこれ以上は遅らせられないし。」 「あーっ!!?貴様、ユーゴ=クジョーではないか!!ようやく見付けたぞ!!散々逃げ回りおって、卑怯者が!!!国王を騙してその権力で好き勝手するとは許さん!!」 ユーゴが王国騎士団の熟練度の差にどういった配置にすべきかと、廊下を歩きながら考えていると、突然大声で呼び止められた。 何処かで聞いたこと有るなぁ、と頭の片隅で思いつつも、一番はデータを基にどの部隊を何処に采配するかということに全思考回路を費やしていた。 「学者の一団も守りながらの行軍だと、非戦闘職周辺の位置はは総隊長に任せるか。う~ん、臨機応変で動きも統率取れてるから、前線に居てくれると探索がスムーズなんだけど……。」 「おい、この俺様を無視するとは良い度胸だな!!不敬罪で今度こそ牢獄に送ってくれる!!!」 ガシッと肩を掴まれて、渋々振り向いた先に居たのは、案の定ギルバート元殿下だった。 取り巻きの奴等も文系の宰相の孫以外は居て、恨めしそうに睨んでいる。 大慌てで遠くから他の騎士が止めに走って来てるということは、突然無許可で隊を離れて此方へ向かってきたのだろう。 丁度、訓練の合間の休憩時間でバラバラに軽食を取っていたと見える。 「お久し振りです、ギルバート殿。随分と精悍になられましたね、騎士団での暮らしはいかがですか?」 「貴様!!よくもぬけぬけと!!貴様のせいで俺様は王太子をエドガーに奪われたのだ!!あんなヘラヘラした腰抜けに!!」 エドガー王子が腰抜けだというが、物理とごり押しだけでは良い政治など出来ないのだ。 他国との落とし処等々微妙な駆け引きは、周りの有能な人間に丸投げしていたギルバートと違って大分上手いのであった。 王としての失言も無く、老獪な国の使者とも渡り合えるというので、益々王国の体制は強固になっている現状だ。 「ギルバート殿は取り返しの出来ない失言が多々有りましたから、私の婚約破棄の一件はただの断罪する切っ掛けに過ぎません。それよりも、今回の調査団に配属とは……ふむ、王様も非情ではないようですね。」 危険では有るが、国の代表の任務を成功させると王族の時よりは劣るが、多少は待遇が良くなるだろう。 中央には戻れなくとも、何処かの土地で余生だって過ごせる。 だが、生粋のお坊っちゃまで初めての挫折が人生を左右するレベルだったギルバート達には、親心というものがサッパリ伝わってなかった。 「何を言う!!貴様が配下の分際で、グズグズと俺様達の処分に口出しして邪魔したせいで、無駄に時間を費やしてしまったんだぞ!!」 「そうだそうだ!!父上にしごかれた後、俺達がどんなに苦労したか!!ここで会った今この時が、お前の最期だ!!」 口々にギルバートと取り巻きがいきり立つのを、無表情で眺めていたユーゴだったが、ふと不味いことに気付いた。 (コイツら、全く反省してないってことは、俺の邪魔をする為なら軍の命令も無視して暴走しないかな?ギリギリの状況で好き勝手に動かれたら、いくら他の王国騎士が優秀でも手綱を取りつつ切り抜けるなんて無理だよな。) なにしろ、他国との交流の場である卒業パーティーでやらかした面子なのだ。 空気が読めないどころか、我を通すのに躊躇無く国益すら無視できるのだ。 「ふぅ……変わりませんね~貴殿方は。少しは世間に揉まれて常識が身に付いたかと期待しましたが、一度コテンパンにされないと判りませんか?騎士団での勝手な行動は、処罰の対象ですよ?」 「う、うるさい!!俺様は王族だぞ!?下々のものをどうしようと勝手だ!!」 ついには剣を抜いて斬りかかってきたギルバートを、ユーゴは持っていた書類を投げ付けて目眩ましすると、鳩尾に雷魔法のスタンを撃ち込んだ。 ビクリと痙攣して仰け反るギルバートの顎を蹴り上げ、一撃で昏倒させると、事態についていけない取り巻き共の膝を横から払い、よろけさせるとギルバートの落とした剣を拾って一人のこめかみに柄頭をヒットさせた。 将軍の息子が倒れたギルバートに気を取られて助け起こしている目の前に、そのまま切っ先を突き付けた。 「ひ、卑怯な!!魔法を使ったり目潰しなど…」 「遅いな。これではあっという間に食い散らかされてしまう。正々堂々真っ向勝負なんて、死闘の中では糞の役にも立ちませんよ。」 瞬時にして三人の騎士が叩きのめされたのを見て、同僚であろう王国の騎士が数メートル手前で目を白黒している。 ヒョロッとした小柄な女顔のユーゴが、複数相手に圧倒的な戦力差で制圧するとは思わず、助けに入らねばと重い鎧をガチャガチャとならして必死に走ってきていたのだった。 「き、君は一体……侍従でもこんなにも辺境の者は強いのかい?」 「違いますよ、俺は侍従じゃない。申し遅れたが、俺はユーゴ=クジョー。この辺境の領主ですよ。貴殿方は俺と彼等との因縁は聞いてないんですか?」 まさかこの目の前ののほほんとした二十歳そこそこの青年が、ここの領主とは思わなかった騎士達は慌てて姿勢を正してペコペコと謝った。 これから支援してもらって旅立つのに、仲間が突っ掛かっていって、剣を向けたのだ。 下級騎士達にしてみれば、連帯責任と言うとばっちりがこの青年の意向で降りかかるかもしれないのだ。 「ああ、良いですよ。この人達の残念さは数年前から見に染みてます。此方もちょっと思うところも有るので、隊長さんに取り次いで貰えますか?」 微笑を浮かべてユーゴが隊員に頼んだのは、ユーゴ達幼馴染み三人とギルバート達の所属する隊との模擬試合だった。 勿論、刃を潰した剣以外は実戦形式で何でもありの総力戦だ。 話を聞いたギルバート達は合法的にぶちのめせると内心ほくそ笑んでいたが、ユーゴの提示した何でも有りという所を失念している。 魔法でもアイテムでも罠でも有りという、真っ向勝負ではない戦いはユーゴがもっとも得意とし、これからの探索で実践される戦術だった。 今回はアイテムと罠は闘技場ゆえに使えないが、開始早々の土での目潰しくらいは、ヤル気満々のユーゴだった(笑)
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