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ショックで頬を押さえて棒立ちの状態だったユーゴは、頭上で繰り広げられる幼馴染みと自分の婚約者の応酬に流石にここでは不味いと我に返った。
ガッチリとホールドされて、頭を撫で回されるポジションからやっと脱出した時には、寝起き一歩手前のボサボサ頭だった。
ミコトの抱え込みで胸板に顔が埋もれていて、声だけが聞こえている状態だわ、アレックスのでかい声はシンとなった会場中に余計に響いてるわ、ヴィクトリアの発言に突っ込み入れたくてもドンドン話は進んでいくわで呆けている場合ではなかった。
「ヴィクトリア……いや、第四王女殿下と御呼びした方が良いでしょうか?この婚約は王命で決まった事なので、王太子殿下や王女殿下が破棄しようとしても、王の許可が必要です。別室で詳細を話し合った後に破棄するのなら、俺は構いません。この先、王女殿下が想い合う殿方が現れるかもしれませんし、家族の元を遠く離れるのも不安でしょう。」
ただし、年頃の優良な男性陣が軒並み婚約者持ちで、ユーゴの故郷と王都を挟んで反対側の農業や牧畜の盛んな穀倉地帯なら、御歳五歳になる坊ちゃまがいらっしゃるようなのだが、如何せん若過ぎる。
歳の差十数歳はネックな気がするし、王女を降嫁させるには御互いにメリットがないのだ。
ヴィクトリアは適齢期を逃すし、相手の子も下手したら母親と近い歳のお嫁さんになる。
跡継ぎも出来にくく、貴族といっても王都での便利な生活には程遠い、よく言えば牧歌的な慎ましい暮らしが待っているのだ。
第一、ヴィクトリアはユーゴの幼馴染み、ミコトを狙っているのだ。
物語の英雄のような強くて優しい上品な年上のイケメン、絵に描いたような王子キャラでないと自分に相応しくないとユーゴを振ったのに、次の婚約者は幼児か後添えか第二婦人以降の席しかないのだ。
「これは一体どういう事だ!!まだユーゴ=クジョーとの婚約を破棄されてないとは、伯爵の三男風情が身の程を知れ!!妹の付属品ならば、従者の一人くらい喜んで差し出すのだ!!」
一度、落ち着いて話し合おう、公衆の面前でする話ではない、今は卒業パーティーで他の卒業生の晴れ舞台を台無しにしてはいけないだろう。
そういって、別の場所での仕切り直しを提案していた矢先、会場の大きな扉が勢いよく開いて、王太子のギルバートと取り巻きが怒り心頭で乗り込んできた。
「ぁあ……またややこしくなってきたよ。王太子殿下ってば、他国の留学生も居るんだって見えてないよ~。」
「まあっ♪お兄様ぁ~ん、首尾はどうでしたの!?伯爵に囲われているミコト様とアレックス様の身内は確保出来ましたの!?」
他国の留学生も見ている前で暴君発言をやらかした王太子は、愛しの末妹の姿を見付けると、途端に相好を崩して足早に近付いてきた。
ユーゴがさっさと婚約破棄でも良いと言って、別室で詳細を説明する様に持っていったのは、シスコン気味の俺様王太子の失言癖も憂慮しての事だった。
この王子、普段の偉そうな態度だけならまだしも、妹が絡むと途端にポンコツ王子に成り下がるのだ。
母親の身分と長子ということで、王太子(仮)とされているが、一応他にも数人の王子は居るのだ。
「それが!!嘆かわしいことに、屋敷は藻抜けの空、王都の辺境伯邸は施錠されて、態々出向いたのに何故か父上の部下共が居て、俺を追い返したのだ!!」
オーバーアクションで愛する妹に説明するポンコツモードのギルバートは、一応兵士達に屋敷が空っぽの理由を聞いたのだが、右から左へ聞き流していた。
辺境に三男坊が帰ってくるというので、領地でも卒業おめでとうの祭りが有るのだ。
たまには「家族全員」で祝いたいと、休暇を申請していた辺境伯達と使用人、部下の騎士達までもが、ウキウキと故郷へ旅立っていたのだ。
王太子とその仲間達は、しきりに何処で計画が漏れたのだと悔しがっているが、祭りの準備に気が急いたせいで準備出来次第に我先に帰郷しただけの事だった。
そして、このやり取りも他国の留学生や地方の貴族にバッチリ聞かれていた。
(あ~、父上も兄上も俺に帰ったらサプライズするって張り切ってたんだよなー。そりゃ、半年前から気合い入れてウキウキしてたから、つい先に出発しても良いよって言っちゃたんだよなぁ。)
まさかの婚約破棄騒動が起こるとは思ってもおらず、卒業パーティー終わったら一晩寮に泊まって、次の日の早朝に自分達も用意した馬車で帰郷予定だったのだ。
もしも、ヴィクトリアが興味持ってくれたら、一緒に誘っても良いと王様の許可も戴いていた。
勿論、嫁入りまえなので絶対に手は出さないと誓っていた上で。
「あ、あの…恐れながらギルバート殿下、ここでは……」
「まあ、良いだろう!!ヴィクトリアの目的の人物はここに居るようだし、本人の意思と王族の後ろ楯が有れば、田舎貴族の三男坊などどうでも良い!!業腹だが、有能ではあるから特別に取り立ててやっても良……」
「「さっきも御断りしました!!!」」
会場中の注目度がヤバイことになっているが、ポンコツモードのギルバートは目の前のヴィクトリアの味方をすることで頭が一杯だった。
「うわ~、二人とも即答過ぎる!!えぇ~と、申し訳有りません、王太子殿下。無礼講では有りますが、ここでは外野が多すぎるので、静かな別室で話し合いたい所存です!!(頼むからこの先の公益に不利な姿を曝さないでよ、王太子でしょう!?)」
今度は台詞に被せての拒否反応を示したアレックスとミコトに、ギルバートはどや顔でポーズを決めた笑顔のまま、凍りついたように固まった。
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