始まりは婚約破棄から

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「痛い!!父上、一体何を……」 「馬っ鹿もーん!!!ヴィクトリアが政治闘争に巻き込まれんようにと、態々辺境伯に土下座で頼み込んで、これからも王国と辺境の良い関係を築こうとしておったのに、見当違いで罵るとは!!ワシは奴にどう謝罪すれば良いか判らんわ!!しかもユーゴ君にだって無理言って引き受けて貰っとるというのに!!」 グリグリとゲンコツで頭の横を挟んで、ギルバートにお説教しながらユーゴにすまんの~馬鹿息子とお花畑脳な娘で、と謝っている。 公共の場では無いから謝罪も出来るが、パーティー会場に居たままならそれもままならない。 王様とは国のトップなので、おいそれと一応臣下である辺境伯に謝れないのである。 ここが別室だからこそ、ここまでぶっちゃけて父として、辺境伯の親友として、怒っていられるのである。 「だって、お父様。ユーゴはこんなに平凡で、授業もサボりがちじゃないですか!!それなのに、各方面に賞賛される有能な部下なんて、家の権力で無理矢理従わせているに決まってますわ!!王家と婚姻したら、ますます増長しますわ!!」 「うわ……第四王女殿下はそんな風に俺の事を思ってたんですか!?誤解ですよ、俺、ミコトにスパルタ方式で勉強会で叱られてるし、アレックスには手加減無しで手合わせされてますよ!?権力で押さえつけてませんて。」 付け合わせのラディシュをフォークに刺したまま、ヴィクトリアが目前に突き付けると、ユーゴは困ったように笑ってやんわりとフォークをずらして席を移動した。 (いやいや~、辺境の歴史とかヴィクトリアも一緒に習ったでしょうに。) 王国の首都が国の真ん中なのは、理由がある。 辺境……ユグドラシルに近い程魔素は濃くなり生き物は強くなるというのは、地方の特産物を知れば自ずと予想できるものだ。 質の良い魔鉱石、魔物の素材、成分の濃い薬草類等々……魔素の影響を受ければ品質が上がるものがすぐ身近で採れるのは良いことだが、その分、野生の生き物全般が強力なのだ。 建国の折り、一番サバイバル力の有る腕っぷしの強い仲間達が、王都への物資供給と元気一杯な野生動物が雪崩れ込まないように、間引きを請け負ったのだ。 本来なら建国の祖であり王となるはずの英雄と呼ばれた人物が率先して辺境伯に成り、腹心の政治経済に強い人物が中央で全体の司令塔して王都の原型を作った。 辺境から流れ込む魔物を制御する間に、開拓に詳しい者達で穀倉地を発展させ、立派な町をいくつも作って国の力を上げていったというのは王家に伝わる書物に記されている秘伝だった。 この王国は、王家に作られたのではなく、リーダーである辺境伯の先祖によって作られたのだ。 今も昔も、辺境、王家、穀倉地で持ちつ持たれつでやっているから成り立っていけてるのである。 「はぁ……ヴィクトリア、お前には伝承の講義は大まかにしかしてはいなかったな。我等王家は、元はと言えば英雄の補佐役として中央での全体を管理する者だったのだ。他国との交渉のために、名目上王家は作られたが、辺境、王家、穀倉地は対等に協力して国を発展させてきた。いわば、パートナーだ。」 王様の言葉を引き継いで、宰相が頷くと婚約までの経緯をすらすらと説明した。 「我が国の経済は辺境からの珍しい素材と穀倉地の食料が無ければ成り立ちません。穀倉地は年頃の男性は少なくて、尚且つ素朴な生活をしております。ヴィクトリア殿下は、王都育ちで便利なアイテムに慣れておりますから、貴重な魔道具も豊富で、同い年のユーゴ様がいらっしゃるのでということで婚約していただきました。」 鼻の上からずり落ちそうな眼鏡をしきりに直しながら説明する宰相も、内心ゲッソリしていた。 何故ならば、王太子の取り巻きには自分の孫も入っているし、騎士団長の息子もいるのである。 「で、ですが、父上!!コイツはヴィクトリアの申し出をしょっちゅう断って、学園の外でふらふらしていたのです!!部下の二人に丸投げして、時には伝令のみですっぽかすなんていう始末!!結婚した後の冷遇されるヴィクトリアの気持ちも考えて下さい!!」 バンバンとテーブルを叩いて反論するギルバートの言い分に、取り巻き達もウンウンと同意していた。 「発言をお許しください、陛下。伯爵家に嫁ぐならば、せめて長男の嫁というのが筋ではないでしょうか?それを三兄弟の末っ子とは、あまりに不憫ではないですか!!」 「年上とはいえ、長男のグレンはそこまで年の差が有るわけでもない。ヒョロヒョロの頼りない三男よりも、頼り甲斐の有る長男の正妻として嫁ぐ方が相応しい。政治には関われない立場なら三男が都合が良いんでしょうが、平民に嫁がせるのと同然です!!」 宰相の孫であるインテリ風の青年が珍しく祖父を睨み付け抗議をすると、騎士団長の息子も見るからに頼りなさそうな風情のユーゴに不満たらたらで、拳を握りしめて肩を震わせた。 「あの~、俺が親父の後を継ぐんで一応次期当主なんですけども……?」 どうもギルバートや取り巻きまでもが、長男が跡継ぎ=常識という意識で、長男のグレンが辺境騎士団に入隊した事も、次男のセオドアが冒険者になった事も然程気にしてなかったようだ。 端からその内グレンが後を継ぎ、セオドアがサポートして、ユーゴは平民として家を出ると決めつけていてヴィクトリアの婚約も王家が貴族を通り越して平民に堕ちる等、と苦々しく思っていたようだった。 「ユーゴ様、王太子様もヒートアップして全然聞こえてなさそうです。陛下が雷を落としてくれますから、ご飯を食べましょう。」 「そうだな、ユーゴ。友人達が給仕に付き添って、美味しい部分を手分けして選んでくれたらしい。冷えて固くなると味が落ちるものも有る。デザートは食後だからな?」 スプーンを持って、ポテトグラタンをつついていたユーゴが、手を止めてチョロチョロしながらツッコミを入れているが、気付かれずにスルーされている。 その様子を見て、ミコトとアレックスは王太子達が興奮して視野が狭くなってて、埒が明かないと先に食事を済ませる事を勧めた。
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