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「俺、別に出来がそんなに悪いって訳じゃないと思うんだけどなぁ~。座学だって総合二位だし、戦闘だって二位だし、魔法だってちょっと苦手なとこ有っても上位三位をキープしてたよ?」
「ですよね。ヴィクトリア殿下と婚約するからには優秀な成績でないと恥ずかしいだろうって頑張ってましたものね。よしよし。」
ムッスーと口を尖らせてポテトグラタンを食べながら、愚痴を溢すユーゴの頭を慈愛の瞳で見ながら撫でているミコト。
弟同然の彼が、ヴィクトリアがバカにされないように色々と頑張ったと側で見て知ってる以上、ユーゴを蔑ろにして、あろうことか自分に告白などもっての他だった。
それは幼馴染みでユーゴを命の恩人だと思っているアレックスも、体格が自分より小柄なユーゴがルールの決められた学園の剣術で苦労しているのをバカにするなど腹立たしくて仕方ないのである。
「ユーゴの得意な戦い方は、学園の剣術のルールを当てはめると禁止ばかり。それさえなければ実戦で通用するのはユーゴの方なのに、あれはダメこれはダメと!!」
「えーと、どうどう、アルもミコトも一緒にごはん食べよう。どうやら陛下と殿下達の舌論もヒートアップしてきてるし、量からして二人の分も取り分けてくれてるみたいだよ。」
それでも横で怒りながら、飲み物を継ぎ足してくれるアレックスを見てると、段々ユーゴの方が頭が冷えてきてどう見ても一人分じゃない料理に気付いた。
骨付きの鳥もも肉は三本有るし、大好きとはいえ山盛りのポテサラは多すぎる。
それに、ミコトやアレックスの好物も盛り沢山なので会場にいる友人が気を利かせて大盛りにしてくれたらしい。
「災難だったね、ユーゴ。ヴィーがミコトに見惚れていたのは知っていたが、まさか故郷に恋人が居るというミコトの言葉をまるで無視しているとは、思わなかったよ~。」
第二王子のエドガーが護衛と共にユーゴ達のソファに近付いてきて、ちゃっかりと隣に腰を下ろした。
一昨年、首席で卒業したこの先輩は領地経営の相談にも乗って貰っていたので、辺境伯の家庭事情にも通じていた。
それゆえに、妹が嫁ぐとなっても「やあ、便利なアイテム使い放題じゃないか。土地柄、情も深いと言うし、良いところに決まったものだ。奇跡だね♪」と両手離しで喜んでくれた。
もっとも、面食いで演劇の物語に大興奮なミーハーな妹が少々不安要素でも有ったが、まさか然程不細工でもなく、お馬鹿さんでもひ弱でもないユーゴがそこまで拒否られるとは思ってもなかった。
「いやはや、父上と祝辞の用意する筈の兄上が行方不明で俺にお鉢が回ってきてさ、宰相と原稿暗記してたら行きなりこれだよ!?俺、外交官の仕事残ってるのに連れ廻されてて、可哀想じゃない!?」ヒョイ…パク
「はぁ……俺もいきなりビンタされて、何が何だか判らない内に衝撃発言されて、頭が痛いですよ。叩かれた頬は物理的に痛いし、世紀の大失言のオンパレードに精神的に頭も痛いですよ。ヴィクトリア殿下は面食いって知ってましたが、まさかその性癖に人生と国の面子を賭けるとは。」モグモグ
「エドガー殿下、ユーゴ様の皿からガーリックシュリンプを摘ままないで頂きたいのですが、切り落としますよ?」
大好きなコロケを食べてる横からエドガー殿下が手を伸ばして、ユーゴの皿からおかずを盗ったことで、ミコトのこめかみに青筋が浮かんだ。
素早く手に持った肉切り分け用ナイフを逆手に持ち換えると、次に手を伸ばしたエドガーの指の間に、紙一重でザクッと振り下ろして摘まもうとしていたフィッシュフライを突き刺した。
「はい、ユーゴ様。大好きなふわふわサクサクの衣ですよ。ソースはこちらで付けてよろしいでしょうか?あ、そのままで、お口をあーんしてくださいね♪」ニコニコ
「び……ビックリした!?お前、指の隙間ギリじゃん!?わかったよ、もう盗らないよ!!こっわ、めっちゃこっわー!!?」
オーロラソースを付けて笑顔で差し出しているミコトと素直に大口開けて噛り付いてるユーゴの横で、エドガーはソファに仰け反って大袈裟に右手をガードした。
半分は阻止されると思ってたが、指の間ギリギリにナイフが刺さるとは予想外だったようだ。
とはいえ、ここまでがいつもの茶番(コント)のテンプレで、本気で怖がってるわけでも怒るわけでもなかった。
「エドガー殿下……腹減ってるなら、俺のあげるんで、王子ともあろう御方が意地汚い事はちょっと……」
「いや、アレックスもマジに憐れんだ目で反応しないでくれよ~。お前達とじゃれ合いもしばらく出来ないと思って、冗談だからな!?腹ペコだけども!!おお、このパスタ美味いな!!」バクバク
アレックスだけは、残念な子を見る目でそっと自分の皿をフォークと共にエドガーの前に押しやって、眉間にシワを寄せている。
茶番ついでにちゃっかりとパーティー料理のお裾分けをゲットしたエドガーは、黙々とアレックスの皿から食べ始めた。
これくらい図太くて、何となく憎めないキャラで、ちゃっかりしてないと外交官なんてやってられないのだ。
「アレックス、このプチプチしてて変わったのは何だい?」
「ああ……蜂の幼虫ですね。森のエルフの伝統料理とかで、見学に行った時に意外と美味しかったって言ったら、話のネタに取り寄せてくれたそうです。」
しれっと人を選ぶ珍味(?)を第二王子の口に入れるアレックスも図太いが、ふぅ~ん、と唐揚げにされた幼虫を食べ続けるエドガーのチャレンジャー精神も凄かった(笑)
幼少の頃、ユーゴ達は倒したデカイネズミの魔物を持って帰って、料理して貰おうとした経緯が有るので、このくらいは平気であった。
だが、都会育ちの筈のエドガーが平気なのは、外交官という職業柄なのかも知れない。
「もう勘弁ならん!!ギルバート、お前は将軍直属スパルタ部隊でビシバシ根性叩き直してくれるわ!!ヴィクトリアは修道院で良いというまで謹慎じゃ!!」
「あれ?ちょっと、父上!?兄上が根性叩き直してる期間は、仕事どうするんですか!?姉上は嫁に行ってるし、弟はユーゴよりもちっこいのばっかでしょう!?」
口一杯に頬張って呑気に御説教の区切りが着くまで食べていたエドガーは、ブチキレた王様の怒号にフォーク片手に立ち上がった。
「ふも!!?ぐっ……ゲホゲホ!!へ、陛下!?何でそんな事にまでなってるんですか!?ほ、ほら、ちょっとした行き違いじゃないですか。ウチは臣下な訳ですし……」
いきなりの王様の今までで一番の雷に、ユーゴは食べていた玉子サンドを喉に詰まらせて、盛大に噎せた。
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