歓迎ムードが俺の心を削ってくる……。

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歓迎ムードが俺の心を削ってくる……。

結局、王様の意思は変わらず、ギルバート、ヴィクトリアの両名はそれぞれの処分が下ってしまった。 ギルバートは新兵に混じって地獄の強化訓練に参加し、毎日屍のようになってるらしい。 不幸なことに将軍も辺境伯の同期生で、ユーゴ達辺境出身者が普通だと思ってる魔物のレベル違いの強さを身に染みて解ってる為、ブチキレたようだった。 「仮にも辺境育ちがヘナチョコだと!?ふざけるな、ヘッポコ共が!!!御前試合と実戦を同じに見る等、目を開けたまま寝言を言ってるのか!!!国で一番上に立つ次期王がこんな頭に花畑満開で部下共を任せられるものかー!!」 「ヒギャー!!?お、俺は王太子だぞ!?ヘッポコとは無礼だ……痛ってぇー!!?」 ギルバートと取り巻き達は、広い修練場を重い鎧を着け、人一人分も有る砂袋を背負い将軍にしばかれながらランニングしていた。 その数100周、初老に達している筈の将軍に鞭でひっぱたかれながらヨロヨロと進む様は王太子の威厳もへったくれも無かった。 因みに、将軍も砂袋こそ無いが更にゴツい鎧と馬鹿デカイ大剣を担いでダッシュしているので、重量的には大差はない。 軽く汗ばんではいるが、シュバババ!!っという音が聞こえそうな程軽快に走っては、付かず離れずでちょっとでもギルバート達の速度が落ちたらお尻に一撃が入ってるのだった。 「遅い!!ワシが魔物なら貴様らはとっくに八つ裂きだ!!文句が有るならワシに勝ってから言ってみろ!!」バシーン!! 「こ、こんな、重いの、着けて、走れないだろう!!?親父、くらい…ゼェ……しか、無理!!」 「馬鹿息子が、喋る余裕が有るなら、足を動かせー!!必死さが足らぬわ!!何だ、図体ばかり肥大しおって!!!無駄な肉が多すぎるわ!!無駄肉を絞れ、限界まで、重りになる、要らん筋肉も搾れ!!!オラオラ、足が上がっとらんぞー!!」 将軍、鬼の形相で言葉一区切り毎に遅くして出来た息子の尻に鞭を入れている。 身内だからこそ、情けなさと自分の指導不足に余計に厳しくなっているようだ。 そもそも、このギルバートとその仲間は、新兵と同じメニューで鍛えようとしたら、一日処か数時間も着いていけなかったのだ。 将軍の中ではそれも情けないポイントだったらしく、意地でも心身共に鍛え上げると燃えていた。 「…………って聞いて様子見に来たけど、将軍さんが本気だ。でもまあ、訓練初日のレベルで押さえてる辺り、優しいのかなぁ。」 「何、動けなくなってからが本番でしょう?軍で鍛えるならその内に各地に実戦訓練しに行くでしょうし、険しい地形では荷物は自分で担ぐのも当たり前でしょう?フフフ……ウチに来るのが楽しみですね♪」 故郷への出発前にそっと覗いたら、元王太子御一行がオーガのような老将軍にしばき倒されて、干物のようになっていた。 卒業後の威勢が陰も形も無くなって、一気に窶れていた。 ユーゴの横で悪役のように含み笑いをするミコトが居たが、ユーゴも何処かに配属される頃にはもう少し鍛えられているだろうから、少々ミコトがドSな行動しても大丈夫だろうとスルーした。 婚約破棄に伴い、手続きや連絡で出発が延びていて、地元に帰るのが益々気まずくなっている。 可愛いお姫様が嫁に来ると思ってる地元民はそれも含めて歓迎の準備をしていたのだ。 「卒業と同時に振られたなんて、事件直後なら振られた勢いで、振られたーウワァーショックだぁ!!っと帰れたのに、既に冷静になった今、メチャクチャ気不味いよぉー。」 「しょうが有りません。御当主が張り切ってさっさと出発してしまって、引き返すのにも時間が勿体ないじゃないですか。」 やっと手続きが終わり、出発前に噂を聞いて好奇心で覗いてみたが、ご覧の通りである。 「あのさ………あれ、そんなに重いかな?たかが一人分でしょう。左右に振り回すからバランス崩すんだよ。」 「ふっ……体幹がなってませんね。後、見てくれだけ鍛えるからこうなるんですよ。ユーゴ様、御覧なさい、足捌きに無駄が有るし、体重移動と踏み出す時の力の入れる部所が違うんですよ。」 そっかぁ、とのほほーんとした口調で兄貴分に感心するユーゴは、疑問が解けたことでギルバート達への関心がすっかり失せて、帰郷の事で頭一杯になった。 「ヴィクトリア殿下も大騒ぎで修道院に搬送されたし、ギルバート殿下達も意外に元気そうで何よりだ。はぁ、そんなことより俺はセオドア兄さんに大爆笑されそうで、スッゴク帰りにくいんだよなぁ~。」 長男のグレンは普通に慰めてくれそうだが、次男のセオドアは遠慮無く大爆笑するだろう。 「でしたら、私がセオドア様の横で終始威圧しておきますので、ご安心ください。ええ、あのボンク……御仁は、ちっとも帰ってきやしないのでそれも上乗せして尻の一つや二つつねってやりますとも。大体、文もたまにしか寄越さないわ、帰ってくるのは急だわ、此方も準備があるのに、酷い時など私が寝起きで頭がボサボサなのに、ウチのリビングで勝手にお茶飲んでるんですよ!?」 (おっと、地雷踏んじゃった。セオドア兄さんもミコトに早く会いたいからって予告なしはやめれば良いのに………。) 好奇心旺盛な次兄が糸の切れた凧のように何処かへ飛んでいかないのは、忠誠心が高くて地元で辺境伯に仕えると決めているミコトが居るからだ。 ユーゴも風来坊な兄が心配なら、アチコチに冒険に出掛けるセオドアに着いていけば良いよと言ったことが有るが、それを良しとしなかったのはミコトである。 辺境伯家やユーゴ達に受けた恩を一生懸けて返すと、そして自分が仕える主はユーゴだと言っていたが、多分自分まで冒険者になればセオドアが今以上に帰って来なくなると思ってる節がある。 それに、明日も知れない風来坊は性格的にキツいだろうとセオドアも止めたらしかった。 「あ、用事も済んだし、早く行かないとアレックスが馬車で待ち惚け喰らってるよ。急ごう、ミコト!!」 「そうでした!!早く行かないと、アレックスが心配して此方に来てしまいます。入れ違うと面倒ですね。行きましょう!!」 王女でかなりの美少女であるヴィクトリアを振ったからと言って、別にミコトは男が好きな訳ではないのだろうが、一族の元の出身地の気風もあり、あまり忌避感を持ってないらしい。 ユーゴは、優しい兄貴分とお茶目な実の兄が仲良しなのは嬉しいが、ちょっぴり寂しいような、複雑な心境だった。
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