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心なしか張り切ってるように見えるミコトの後ろ姿を見ながら、故郷に帰ると次兄とミコトの無意識なイチャイチャを見せられると気付いて渋いものを食べたような顔になった。
(そういや俺、ヴィクトリアに振られたのに、帰ったら父上と母上だけじゃなくセオドア兄さんにも見せつけられるじゃん。本当なら俺もヴィクトリアにキャッキャウフフな観光案内とかしてたのに。ミコトが嬉しそうなのは良いけど、振られたばかりの独身者は居たたまれないよ!?)
取り敢えずは集合場所に急がないと行けないと頭を切り替えて、早足で馬車を待たせてるエリアへ急いだ。
案の定、馬車の前でうろうろと行ったり来たりしていたアレックスを見付けて慌てて駆け寄ると、もう少しで迎えに行くべきかと悩んでいたようだ。
「アレックス、ごめん、待たせたよね。ギルバート殿下達の様子も見てきたんだ。結構、へばってたよ。バッチリだよ♪」
「そうか!!ウンウン、将軍も厳しい人だからな。よくよく根性から鍛えてもらわんとな!!俺も買い直した土産を積んでいたからそんなに待ったわけではないんだ。ただな、事件が事件だから注目されてどうにもケツがムズムズするんだ。」
二人で悪い顔をしながら、ギルバートざまぁ、と笑い合ってると、ポンポンと順番に頭を軽く叩かれた。
「二人とも、馬車に乗ってからにしてください。日が暮れる迄に中継地点の町へ着けないと、野宿ですよ!!」
馬を操る御者さんも苦笑いしながら、扉を開けて待ってくれている。
ユーゴとアレックスは、慌てて謝ると馬車に飛び乗って席に着いた。
出発時間が数時間ずれたので、辺境伯家に仕える御者さんは、馬のお尻にピシッと鞭を入れて合図して急ぎ気味に王都の門に馬車を走らせた。
大通りの馬車道は整備されていて多少急いでも揺れは少ないが、街道ではやはり飛ばしすぎるとかなりの揺れを覚悟しなければならない。
「若様方、ちっと飛ばしやすぜ!!前方後方、確認良し!!オラオラ~!!」
ガラガラガラ……!!!ヒヒヒーーン!!
「ちょ……おっちゃん、待たせたのは悪かったよ~。手加減してよ~。ふぎゃっ!?」
「あらら……ユーゴ様、大丈夫ですか?ほら、クッションひいて座って、捕まってないと。おじさんはこういう時でないと爆走できませんからね。その内に道が少しずつ悪くなるので、スピードダウンしますよ。」
馬も思いっきり走れると、今か今かと待っていたようで、嘶きをあげて直ぐにトップスピードに乗っていった。
悪路をチマチマ走るよりも、広大な草原地帯の街道をドカンと走るのは気持ちが良さそうだった。
爆走の気配を感じて、一言だけ安全速度での運転を言っておこうと思ってたユーゴは、急加速で座席から跳ね上がった。
絶えず突き上げてくる木製の座席にお尻がボコボコと打ち付けられ、情けない声をあげるしかなかった。
体力的にはキツいが、揺れを合わせられる分、馬車よりも乗馬した方がお尻的には優しいのではと、毎回涙目のユーゴだった。
「大丈夫か、ユーゴ。俺のクッションも使うか?」
「角が……さっき、お尻の骨に座席の角がごつんって。アレックス、ヤバい、俺のお尻が割れた。」
「元々でしょう。ほら、姿勢よく座らないと、また跳ねあげられますよ。」
御者のおじさんが満足する頃には、中継地点の宿場町が見えてきていた。
丁度、日が落ちる寸前に着けそうなのでもう少しだけ飛ばしてもらって、一行は町へと向かった。
「若様~着きましたぜ♪はっはっは、相変わらず馬車酔いですかな!?いやぁ、久しぶりに気持ちよく飛ばせましたわ♪」
「………おっちゃん、待たせたのはホント悪かったから、次からまろやかに走って……ガクッ」
良い汗かいたぜ、とばかりにご機嫌な馬とおじさんに恨めしそうな瞳を向けたユーゴは、ジンジンと痛むお尻を擦りながら宿屋に入っていった。
帰省のための旅は始まったばかり………だが、おじさんの思うマイルドな走行とユーゴの言うマイルドな走行は大分基準が違っていたのだった。
数週間後、やっとの事で辺境に辿り着いたユーゴ達は、町を挙げての力の入りまくった卒業おめでとうの弾幕にガックリと力が抜けた。
しっかりと追加で「フラれても元気出せ!!ユーゴ様、がんばっ♪」と書かれたウェルカムゲートが作られていたからだ。
「おっ帰り~♪いやぁ、ユーゴってば、あのツンツンツンデレッなヴィクトリア姫に見事にフラれたんだって!?まあまあ、夢見る乙女には王都が一番だろうな。高身長が第一条件みたいだったし、ミコト見る目がハートだったもんな(笑)」
「セオドア兄様、俺はこれからバーンッて伸びる予定だったんですぅ~!!見た目以外で頑張れる所は極力頑張ったんだよ~!?」
群衆に混じって昼間からエール片手にどんちゃん騒ぎしていた放浪癖のある次男坊、セオドアが陽気に声を掛けてきた。
仲間の人も多少は変化があるが、大体同じメンバーでこちらに帰ってきたらしく、ニヤニヤとからかうような顔で兄の後ろから覗いていた。
「ぶっ……ワハハハ!!いやぁ、ユーゴ坊っちゃんよぉ、セオドアに聞いたけども、十代其処らの箱入り娘が理想と現実ごちゃごちゃにしてるってのは良くあるぜ?まあまあ、良い女は星の数ほど居るらしいから、元気出せや!!」
セオドアの初期の頃からの仲間であるランサーのジョルジュが、肩に槍を持たせ掛けながら大爆笑していた。
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