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オッサンだが、元々十分な技能はあって、性格が四角四面なお堅い騎士団が合わなくてあっさりと退団してきた変人である。
昔、学園の戦闘の指導に来ていた縁で、セオドアと二人して仲間を集めてパーティーを結成したのだ。
一応、かなりの上位貴族出身だったが、退団の件で実家を勘当されて、これ幸いとさっさと辺境に来てしまったのだ。
「ジョルジュのおっちゃんも、笑い事じゃないよ!!ヴィクトリアに観光案内しようと誘おうとした瞬間、ビンタ飛んできてフラれたんだよ!?全卒業生と来賓の前で!!落ち込むまもなく、手続きとか大変だったんだよ!?ツアーの内容も考えてたのに~!!!」
「いやいや、産まれた時から蝶よ花よって育てられたら、侍女や御令嬢の噂や憶測で辺境のイメージ作ってるだろ。面食いで高身長ありきでって言う時点でそりゃ無理が有ったんだって(笑)」
王様もユーゴがちっとも体格が大きくならないので、薄々、ヴィクトリアの"私の王子様像"に外れて来てるのでは、という嫌な予感はあったようだ。
ボソリと、こんだけ食っとるのにユーゴは中々伸びんのぉ…。と溢した事が有ったのだ。
それでも、王様も辺境伯も結婚してからの容姿に関することで喧嘩しないかといった夫婦仲を心配していたのであって、その結婚前にぶち壊されるとは思ってなかった。
ヴィクトリアは、元々ユーゴがそこまで嫌いだったわけでも無いのだ。
ちょっと小柄だけど、その他はまあまあだった、というのが初対面での感想だ。
ただしその後で、イケメン従者とのほほんとしたユーゴを見比べて、次第に妄想と変な思い込みしやすい性格が絡まり合った結果、勝手にミコトとアレックスが不当に虐げられ、人の良さそうな顔の裏で二人の弱みを握ってこきつかう悪人なユーゴのお話が出来上がってしまったのだ。
勿論、そうなると悲劇の佳人であるミコトとそれを助けて感謝される自分、そこから急激に燃え上がる恋!!というシナリオに、良い感じに脳内お花畑状態になって春真っ盛りになってしまったのだ。
「俺だってヴィクトリアに会った時に勿体無いくらい綺麗だと思ったよ!?見た目的に俺の横に並ぶよりもっとイケメンが見た目的に合うのも知ってるよ。でもさぁ、だからって何で俺が悪役になるわけ!?そこまでへっぽこに見えてたの、俺!?」
ユーゴが王宮に詰めてる間に、急に思い立った勢いで数回突撃してきたヴィクトリアを、ミコトやアレックスがユーゴの婚約者だからと丁寧に対応して居たのが、勘違いされた可能性もあったといえばそうだが。
王宮に呼ばれて報告書を出しに行ってるという情報が、ただの報告書ではなく始末書やお叱りの用件で呼び出されてるのを従者が誤魔化してるのでは?
そんな冗談交じりのネタ話を、御令嬢達とのお茶会で言っているのを次第にヴィクトリアが真実と思い込んできて居たという斜め上の理由も、最後までユーゴ達にはさっぱり見当がついてなかったのだ。
王様だって聞かれればそんな世間話程度の事は、正直に辺境の領地経営報告書と調整の関係で呼び出してると答えたが、フィルター付きの目で見ているヴィクトリアとヴィクトリア至上主義のシスコン王太子ギルバートには微塵も真実が伝わらなかったのだ。
「全く!!テディもジョルジュさんも笑い事じゃないんですよ!!あれだけ、第四王女を政界に巻き込みたくないと昔のよしみでお願いされたから、辺境伯様が縁談を調整したというのに、王女本人が台無しにした挙げ句、寄りによって諸外国の留学生も居る前で王家の恥を晒したんですよ!?お陰でこちらがまた王家の尻拭いで、渋々泥を被る羽目になったんです!!これ以上感謝も貸しも要らないから、ユーゴ様の汚名返上(そもそも身代わりじゃないですか!!)を訴えたいですよ!!」
「ハイハイ(笑)ミコは相変わらずユーゴが可愛くて仕方ないのな。俺に怒っても仕方無いねぇ、あはは。」
自分の胸ぐら掴んでブンブンと揺さぶるミコトに、セオドアは何処か嬉しそうににやけながらちゃっかりと腰をホールドして、膝の上に乗せた。
すぐに、ふざけてないでちゃんと聞いてください!!と怒られていたが、セオドアは何処吹く風でしれっと聞き逃して久々の恋人をニコニコと見ていた。
「親父は騎士団の演習がこっちに回ってきたら、血反吐吐くまで扱き倒すって怒ってたな。八つ当たりされる全騎士団が哀れだぜ。王太子とヴィクトリア姫の周り以外は、きっと寝耳に水だぜ?」
アレックスがとばっちりでボコボコにされる騎士団に同情すると、ジョルジュと他の仲間は逆にわぁっと余計に盛り上がった。
「マジかよ!?はっはっはぁ~♪良いんじゃねぇか!?学園じゃ優秀かも知れんが、実戦は勝って生き残ってなんぼだっつー事を、優し~く教えてくれる親切なオヤッさんじゃねぇか(笑)」
「あれだろ!?貴族意識高い系の奴ほど、冒険者風情とバカにしてちっとも警告に従わねぇって話をよく聞くぜ。そういう奴居たらブチのめしたいけど、俺達がやると不味いんだよな。助かるぜ、オヤッさんにヨロシクな!!」
「アタシ達もデカイお子様に仕事場荒らされるのは御免だもの。ユーゴちゃんに絡んできたような甘ちゃん連中は、精神的にプライド粉砕して欲しいわ♪」
………等々、エールとつまみ片手にノリノリである。
王家批判?いやいや、騎士団を鍛え上げるの賛成って言ってるだけっすよ。
それを皮切りに、ユーゴにわらわらと代わる代わる群がってきた住民達は、好き好きに慰めやら卒業の祝いやらを言っては、笑顔で帰っていく。
「若様、世に女は星の数ほど居るわな。そのうちに気立てのいい嫁さんが来てくれるって!!元気だしてくだせぇ。」
「もう卒業かい。あんらまぁ~、若様がついこないだヨチヨチ歩きしてたと思ったら、都会の学校行くって。人のウチの子は成長が早いわねぇって思ってたのよ。そしたらもう卒業ねぇ……アタシ等も老けるってもんさ。立派になって……。」
「「「わかさま~、おっきくなったら、およめになってあげるねー♪」」」
武具屋の親父が節くれだった手でユーゴの背中をバンバン叩いて乱暴に励まし、隠居した爺さん婆さんが薄く涙目になりつつ、ニコニコと両手でユーゴの手を代わる代わる握って握手をしてくる。
その足元では、学校に行っていた数年間に生まれたであろうチビッ子達が、無邪気に飛び回って時折、ユーゴにじゃれついて来ていた。
他にも、食って元気出せ!!無事に卒業して帰ってきて良かった、と屋台のオッサンが串焼きを奢ってくれて、受け取ったアレックスとユーゴは揉みくちゃにされながら大通りを流されていって、あれよあれよという間に気が付くと屋敷の門に着いていた。
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