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始まりは婚約破棄から
豪華なシャンデリアが煌めき、楽隊が優雅な舞踏曲を奏でる中、集まった人々は朗らかに談笑していた。
今日は王立学園の卒業パーティーで、国中どころか他国からの留学生も居る巨大な学園の卒業パーティーとなれば、王家のメンツも有り、豪華なものとなっていた。
卒業後、其々の故郷に帰る者、この王都で就職する者、または…………
「クジョー伯爵家三男、ユーゴ!!そなたとの婚約は破棄致しますわ!!」
「へぁ!?ちょっと待っ……へぶっ!?」
グランデ王国第四王女ヴィクトリアの金切り声と共に、ユーゴは派手な音を立てて張り飛ばされ、茫然と叩かれた頬を押さえて立ち尽くした。
「お、おい。大丈夫か、ユーゴ。ヴィクトリア、酷いではないか。我々は領地に帰ると挨拶をしようと……」
「ユーゴ様、唇が切れております。さあ、此方のハンカチーフで押さえて。私は何か冷やすものを取って参りますゆえ。」
仲の良い幼馴染み兼従者の二人が、あたふたと立ち尽くすユーゴの前に立ち、王女から主君を守りながらキツく睨み付けながら抗議した。
それもそのはず、全く身に覚えの無い上、めでたい卒業パーティーの最中にこんな事が起こるなど、誰も想定してなかったのだ。
「お待ちなさい、その必要は無くってよ!!貴殿方の自由はわたくしが保証致しますわ!!もう、恐れることは有りませんのよ?王家の後ろ楯が有れば、こんな卑怯な男の下に付かなくても良いのです!!」
ヴィクトリアの顔は興奮と優越感で煌めいてて、言ってみれば物凄いどや顔だった。
ユーゴは、まだ次々に大声で暴露される根も葉もない捏造に、頭が真っ白状態だった。
曰く、大したこと無いのに武術の成績を金で買った、と。
勿論、事実無根だ。
実力主義な辺境伯の父が赦す筈は無いのに、ユーゴが少々小柄で着痩せする故に非力と思い込んでいるようだ。
後は、噂好きな王女の取り巻きや王女の婚約者への嫉妬に駆られた負け惜しみを真に受けて、フィルターが掛かってしまったようだ。
曰く、勉学もサボってばかりなのに成績優秀な筈はない。不正に試験問題を手に入れたに違いない、と。
学園に入る前から実質公務を廻していたユーゴは、実践から叩き込んだ知識と家令にスパルタ式で詰め込まれた事前の予習で、本人には当然の常識として染み込んでいたものも多かった。
サボっているというのも、公務で呼び出されて王女のお茶会に参加できなかった数回が誤解を呼んでいた。
サボってフラフラして、学園に顔出しすらしてないから参加しないのだ、でなければ婚約者の誘いには必ずイエスで応えるものだ。
そう考えたヴィクトリアは、ユーゴが王族の自分の婚約者になったから増長している、馬鹿にされたと、勝手に悔しい思いをしていたのだ。
結論、有能な人間がちんちくりんなユーゴに仕えているのは、弱みを握って脅しているに違いない。
仲良し三人組のユーゴ以外、今まさに自分の前に進み出てきてくれた二人の青年の事だ。
友人の一人である赤みがかった金髪の青年、アレックス=フォールは騎士団から出向した講師も唸る程の高速剣の使い手で、スピードを生かすために絞り込んだガッシリしすぎない細マッチョとキリッとした真面目そうな美形だ。
厳しそうなのに、たまに笑うと少年のような笑顔で学園に通う令嬢のアイドルだった。
ユーゴの家に仕える武家の出だが、脳筋でもなくて領地経営や政策の成績は学園二位だった。
もう一人の丁寧な口調の黒髪の青年は、異国情緒溢れる一見線の細い容姿だが、意外に背が高く手足が長い為、細く見えるだけなこの辺では見られない、たおやかな美人だった。
海の向こうの王子様、といった風情の彼は頭一つ分小さな主、ユーゴの口元にハンカチを当てて心配そうに冷やしている。
氷をウェイターから受け取って、せっせとユーゴの回復に努める彼の目は王女など全く入ってないのだった。
ミコト=ツキノモリ、代々ユーゴの家に家令として仕える家の出の男は、一年入学を遅らせる程ユーゴが可愛くて仕方ない幼馴染みのお兄ちゃんだった。
「ユーゴ様、回復魔法を掛けましょう。このままでは、楽しみにしていた料理が染みて食べられませんよ?」
「……はっ!!ご飯!?俺のローストビーフ、チキンカツ、ジャガバター!!」
かつて、渡り鳥と呼ばれた出身地不明の旅人が考案した伝統料理、大陸全土の郷土料理等々、一同に集められて食べられる機会など無いので、ユーゴは友人達と楽しみにしていたのだ。
出来れば、婚約者のヴィクトリアも誘って学生最後の気軽な食事会を楽しめればと、挨拶の時に申し出るつもりであった。
自分が領地の父との伝令係として呼び出されては、過ごす時間を削られていたのも有って、ゆっくりと談笑してパーティーを過ごそうと思っていた矢先のビンタである。
ちょっと食い意地の張ってるユーゴを、現実に引き戻すコツを熟知しているミコトの言葉に反応したお陰でフリーズは無事解けたのだが。
どうやら、王女殿下はユーゴが美形にチヤホヤされてるのが、お気に召さないようだった。
とはいえ、ユーゴは友人よりも小柄だが、モヤシのようにヒョロヒョロではない。
小柄なりに鍛えているし、幼少時から鍛練は怠らなかったので必要な筋肉は付いていた。
どうみても、若い男性で女性と見紛う事もない、第四王女の婚約者として十分な若者だった。
「学園の卒業までは、と我慢していましたが、伯爵家の三男がわたくしの王家の持つ権力欲しさに婚約を捩じ込んだのは判っていてよ!!いくら末席とはいえ王家のプライドに懸けて赦せませんわ!!」
さあ、と芝居掛かった仕草でアレックスとミコトに手を差し伸べると、高々と宣言した。
「ミコト様、このような卑小な者に食い潰されるのが、わたくしには堪えられません。我が夫となって王国のためにも、その能力を生かしてくださいませ!!我慢することなどもう無いのです!!アレックス様、その技量は騎士団から熱望される程と聞いています。栄誉有る騎士団、王家の親衛隊として喜んで迎え入れますわ!!これでお二人とも自由の身ですわよ!!」
「「………は!?御断りだ!!(ですよ。)」」
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