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幸福な日常
幼馴染みである志真は、素晴らしい人間である。齢十四ながら人を思い遣る心を持ち、成績も容姿も抜群だ。
かと言って接しにくさはなく、一緒にいて心地良くもある。学校でも人気者で、先生からの評判も良かった。
そんな志真は、昔から誇れる友だった――今日までは。
「志真、お母さんの調子どう? そろそろ映画とか行かない?」
鞄に教科書を詰める志真の後ろ、顔を覗き混みながら問う。志真は困笑し、私が前に回るのを待ってから答えた。
「ごめん、まだ良くなくて」
志真の母親は、最近調子を崩しているらしい。それを理由に、連日、早帰りする様子を見てきた。ゆえに、詳細は知らないが、芳しくないのだとは察している。
「そっか。じゃあ別の友だち誘うね」
「うん、そうして。いつもありがと」
その上で遊びに誘うのは、純粋に彼が心配だからだ。家庭環境ゆえ、一人で背負ってしまわないかを懸念している。
志真の家は片親家庭で、私に物心が芽生えた時点でそうだった。成長に伴い、家を訪ねなくなってからは知らないが、とても絆の深い親子だったと記憶している。
「落ち着いたら志真のしたいことして遊ぼうね」
「もちろん!」
破顔一笑した志真は、手を振り教室を出ていく。そうして、皆に振り返されながら去っていった。
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