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朝からカラッとした五月晴れが続く、大型連休後のとある平日の昼下がり。
「莉宇、ここって立ち入り禁止なんじゃないの?」
漆黒の学ランに身を纏った瑠輝は、三年通った学び舎唯一の親友でベータである木崎莉宇の背後で、呆れながら声をかけた。
「大丈夫。前から度々、こうして侵入してるから」
少し長めの髪を金色に染めている莉宇は、にかっと瑠輝へ笑いかけると、深紅の蔓薔薇の壁を掻き分け、迷いなくその中へと進んだ。まるで、そこに隠し扉でもあるのではないかと思わせる程に。
「マジ? 不法侵入の前科持ちなんて」
蔓薔薇の外へ置いてけぼりにされた瑠輝は、軽く溜息をつくと親友が消えた場所を見つめ、独り言ちる。
莉宇は、オメガのみのシェルターで暮らす瑠輝が、高校生になって外の学校へ通える権利を与えられ初めてできた友達だ。
一般家庭で暮らすベータとオメガの学生のみが通うその高校は、国立とはいえ、シェルター暮らしの瑠輝に向けられた視線は思っていた以上に差別的で冷ややかで、決して気持ちの良いものではなかった。
シェルターに住むオメガたちが外部の高校には進学せず、その中へ留まる意味を、その時ようやく身を持って瑠輝は思い知ったのである。
だが、莉宇はそんな瑠輝を差別することなく、他者と分け隔てなく接してくれた人物であった。何でも、この蔓薔薇の先で暮らす初恋のアルファ様が、平凡なベータである莉宇を差別することなく優しく接してくれた為、自分も同じように誰にでも優しくありたいと思ったのがきっかけだという。
所謂、莉宇は今時めずらしいヤンキーと呼ばれる類の人種ではあったが、心は誰よりも優しく、実際にそのお陰で瑠輝の心が救われたことは間違いなかった。
だからと言って、アルファの子どもを産むことができない男性ベータの莉宇が未だに初恋を引きずり、侵入禁止エリアへ危険を冒してまで突入するのは、正直首を捻るところである。
しかも、莉宇の想い人はただのアルファではない。アルファの中のアルファ、つまり超がつくほどのエリートアルファなのだから、平凡な一般人であるベータとは絶対に叶わぬ恋となってしまうことくらい、誰が見ても明白だ。
「愛とか恋とか、楽しいものかなあ」
ポツリと瑠輝が呟いたところで同罪とばかりに、蔓薔薇の繁みの中からぬっと現れた莉宇の手により、強引に腕を掴まれる。
「ちょ、ちょっと僕まで巻き込むなってば」
予期せぬ展開に、瑠輝はつい大声を出してしまう。
「しっ、大きな声出したらそれこそバレちゃうって。せっかくなんだから瑠輝も来いよ」
口の前に莉宇はそっと人差し指を立てると、瑠輝も共犯者にさせる為、繁みの中へ連れて行こうとする。
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