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6
初めての発情期を終え、瑠輝がようやくいつもの“瑠輝”として外へ出たのは、それから一週間後のことであった。
発情期も瑠輝の場合、特に酷かったのは最初の三日程度であり、それ以後、発情で火照る身体は徐々に鎮火していった。
既に発情期を迎えたオメガたちから聞いていたそれとは、明らかに違う軽い症状に、瑠輝は拍子抜けしていた。
もしかすると、まだこれは完全なる発情期とは呼べないのではないだろうか。一抹の不安が瑠輝の頭を過ぎる。
いくら症状が軽かったからとは言っても、今回のこの発情期を迎えたことで、瑠輝は底知れぬ自身の欲の漲りを感じ、獣のように狂ってしまったことは確かだ。発情期への自身の認識が軽率で、浅はかだったことを心底反省していたのは間違いない。
発情期の間、確かに瑠輝は全身で煌輝を欲し、その残像を求め、都度達していたのだ。素面に戻った今でも、恥ずかしいほどにその熱情を瑠輝は、はっきりと覚えている。
間違いなくこれは、最後に顔を合わせていたのが煌輝だったせいだと、何故だかそう自身へ言い訳していた。
決して、オメガの本能がアルファを求めたからではないはずだと、そう思いたい。
瑠輝は重い溜息を一つし、ようやく発情期が治まったその身体に、一週間ぶりの学ランをまとった。
今日からシェルターの外へ出られる許可がシェルターの教官より降り、瑠輝は登校も無事に再開できることとなったのだ。
――そう言えば、最後にこの制服に袖を通したのは⋯⋯煌輝が迎えに来た、一週間前のあの朝だった。
不意に瑠輝はそう思い出し、あんなことが起きてしまった後で、もう自分からは――否、煌輝からもオメガとは、もう逢いたくないと。そう思われてしまったのではないか、と思っていた。
とにかく発情した場所が悪かったのだと瑠輝は酷く悔やんだ。不可抗力とはいえ、オメガ禁制の場所で発情し、多大な迷惑を掛けてしまうとは全く予期せぬ出来事だった。
同時にあの日、結局、発情期が訪れた自分を清い身体のまま、シェルターまで無事に送り届けてくれた者は一体誰であったのだろうか。
安心する逞しい腕の温もりと微かに鼻腔をかすめた薔薇の香りに、突発的な発情期を迎えてしまった瑠輝を束の間、安堵させていた。
一体、あの温もりは誰だったんだろう。
まさかアルファの二人ではあるまい。やはりベータである莉宇を呼び出してくれたのだろうか。否、ヤンキーとはいえ莉宇の腕はあんなにも逞しくなかったはずだ。
あの腕の温もりは確か⋯⋯。
定かな記憶はなかったが、何となく莉宇ではないような既視感を覚えていた。
否、でもまさかそれはないなと頭に過ぎった王子様の顔に大きく被りを振る。アルファの煌輝が、オメガのフェロモンに充てられることなくここまで来ることは、限りなく不可能に近いからだ。
ナイロンの学生鞄を左肩にかけ、瑠輝は一週間ぶりに自室の外へ出る。ガチャンとオートロックのドアが閉まる音を確認し、シェルターの廊下を歩き出す。
「瑠輝、久しぶりだな」
その言葉に、瑠輝の全身は硬直した。
少し先で瑠輝を待ち伏せしていたのは、一週間ぶりに顔を見せた水城だったからだ。
「どうだ? 私の言ってた通り、発情期がすぐに訪れただろう?」
瑠輝はびくりと後退りした。
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